《幻想郷》 それはとある東の国になる人里離れた辺境の地 妖怪変化 魑魅魍魎が跋扈し 迷い込んだら最後 怪異の象徴たちに食い殺されてしまうと言われていた 人が近付くはずもない、そんな魔境にあろうことか 妖怪を退治するために住み着く者もいた やがて人間たちはその知と和をもって文明という名の武器を磨き 妖怪たちとの均衡を保ちつつ 数を増やしていった そして時は流れ 今から五百年程前といったところだろうか 人間の勢力が増し 幻想郷の社会の秩序が崩れかけたところを一人の賢者が救ったのだ 彼女は《幻と実体の境界》を作り出し 多数の妖怪を外から取り込むことによって 人間たちに対抗したのである それはこの幻想郷が 現世から隔離された空間となった瞬間である しかし 人間たちの革新は留まるところを知らない この東の国の元号を借りて言うならば「明治」 彼らは非科学的事象を迷信として切り捨てようとした 幻想郷の住人たちは、禍々しい常識に対して《結界》を張り 非常識を保護したのである 現世との強力な隔離によって 平穏を取り戻したかの様に思えた幻想郷だったが 新たな状況には 新たな秩序が必要である 平穏を手にした妖怪たちが 自由奔放に振舞えば そこはもはや阿鼻叫喚となることは自明の理 異形の力に秩序をもたらす法が必要だったのである 己の力を誇示したい妖怪と 安全に自らの領域を守りたい人間 そのどちらもこの難題を解決する糸口を得ることはできないでいた 《スペルカードルール》 それは結界を守る巫女が提案した画期的な法であった 妖怪と人間 その双方を深く理解する彼女だからこそ導き出し得た完璧に限りなく近い決闘の法 形骸化しようとも争いの構造は維持され その一方でその危険性は誰の目にも明らかな程滅衰する この法をもってすれば 妖怪の威厳と人間の平穏は守られるのである そして 妖怪たちは数々の異変を起こし 巫女と彼女と目的を同じくする者たちは それらを解決していったとされる 異変の度に幻想郷は変容し 新たな勢力が生まれ 新たな異変の火種となった 現世から幻想は切り捨てられ 切り捨てられた幻想は寄る辺を求めこの幻想郷を訪れる 忘れられた少女たちの行く末を果たして知る者がいるというのだろうか 幾千の時を過ごそうと少女たちは儚く 美しい スペルカードの散らす一瞬の幻想的な閃きは 少女たちの魂の輝きを現し 見る者の心を魅了する 幻想の煌きを求める者の絶えない限り 少女たちの物語が終わることはないのである