あれから六年が過ぎた。 僕は、この話を誰にもしたことがなかった。 再会した仲間たちは、 僕が生きて帰っただけで喜んでくれた。 悲しかったが、仲間には、「疲れた。」とだけ話した。 今ではいくらか悲しみも癒された。 すっかりというわけでわないが。 しかし、王子さまがちゃんと星に帰ったことは知っている。 明け方、体が見つからなかったのだ。 そんなに重い体ではなかったということだ。 僕は夜、星を聞くのが好きだ。 星は、五億の小さな鈴だ。 しかし、気になって仕方がないことが一つある。 口輪の絵を書いた時、 僕は皮紐(かわひも)を付けるのを忘れたのだ。 あれでは羊に口輪を嵌めることが出来ない。 だから僕は思う。 「王子さまの星はどうなったかな? もしかしたら、羊が花を食べてしまったかもしれない。」 こう思うときもある。 「そんなはずはない。 王子さまは毎晩、花にガラスの覆いを被せるし、 羊だって、しっかり見張っているさ。」 すると、僕は嬉しくなる。 全ての星が優しく笑う。 でも、こう思うときもある。 「一回くらいうっかりすることもあるからな。 でも、その一回が命取りなんだ。 ある晩、王子さまが花に覆いを被せるのを忘れたら、 夜中に、羊がこっそり抜け出したら…」 すると、鈴の音色が涙に変わる。 これが大いなる神秘(しんぴ)だ。 王子さまが大好きな君たちにとっても、 この僕にとっても、 誰もどこだか知らないどこかで、 見たこともない羊が 薔薇を一つ食べたか食べなかったで、 宇宙の何もかもが これまでとはすっかり変わってしまうのだから。 空を見て、そして、自分に聞いてみて。 「あの羊は、花を食べたか、食べなかったか。」 すると分かるだろう。 全てが変わっていくのが。 それがどんなに大切なことか、 大人には、理解できないだろう。 僕にとって、地球上で一番美しくて悲しい場所。 それは、王子さまが到着し、 去っていった砂漠のあの場所だ。 いつか、貴方がアフリカの砂漠を旅して、 そこを通りかかったら、 先を急がず、 真上に輝く小さな星の下で、 少し待っていてほしい。 髪が金色で、よく笑って、 貴方の質問には答えようとしない子供が現れたら、 それが誰か、貴方にもきっと分かるだろう。 その時はどうか、親切な気持ちになって、 僕を思い出してほしい。 悲しみに沈んでいる僕にすぐに 手紙を書いてほしいのだ。 彼が帰ってきたよっと。 -終わり-