[ti:] [ar:] [al:] [offset:0] [00:03.23]あれから六年が過ぎた。 [00:06.26]僕は、この話を誰にもしたことがなかった。 [00:12.40]再会した仲間たちは、 [00:14.38]僕が生きて帰っただけで喜んでくれた。 [00:19.36]悲しかったが、仲間には、「疲れた。」とだけ話した。 [00:28.19]今ではいくらか悲しみも癒された。 [00:32.07]すっかりというわけでわないが。 [00:35.20]しかし、王子さまがちゃんと星に帰ったことは知っている。 [00:41.58]明け方、体が見つからなかったのだ。 [00:48.23]そんなに重い体ではなかったということだ。 [00:55.01]僕は夜、星を聞くのが好きだ。 [01:00.51]星は、五億の小さな鈴だ。 [01:07.36]しかし、気になって仕方がないことが一つある。 [01:13.99]口輪の絵を書いた時、 [01:16.42]僕は皮紐(かわひも)を付けるのを忘れたのだ。 [01:22.11]あれでは羊に口輪を嵌めることが出来ない。 [01:28.48]だから僕は思う。 [01:31.84]「王子さまの星はどうなったかな? [01:35.37]もしかしたら、羊が花を食べてしまったかもしれない。」 [01:42.43]こう思うときもある。 [01:45.09]「そんなはずはない。 [01:47.90]王子さまは毎晩、花にガラスの覆いを被せるし、 [01:52.81]羊だって、しっかり見張っているさ。」 [01:58.21]すると、僕は嬉しくなる。 [02:02.58]全ての星が優しく笑う。 [02:08.49]でも、こう思うときもある。 [02:13.91]「一回くらいうっかりすることもあるからな。 [02:17.96]でも、その一回が命取りなんだ。 [02:22.39]ある晩、王子さまが花に覆いを被せるのを忘れたら、 [02:28.38]夜中に、羊がこっそり抜け出したら…」 [02:35.75]すると、鈴の音色が涙に変わる。 [02:41.34]これが大いなる神秘(しんぴ)だ。 [02:45.35]王子さまが大好きな君たちにとっても、 [02:48.76]この僕にとっても、 [02:53.49]誰もどこだか知らないどこかで、 [02:56.60]見たこともない羊が [02:59.40]薔薇を一つ食べたか食べなかったで、 [03:02.70]宇宙の何もかもが [03:04.88]これまでとはすっかり変わってしまうのだから。 [03:10.78]空を見て、そして、自分に聞いてみて。 [03:18.65]「あの羊は、花を食べたか、食べなかったか。」 [03:26.51]すると分かるだろう。 [03:29.50]全てが変わっていくのが。 [03:35.34]それがどんなに大切なことか、 [03:39.17]大人には、理解できないだろう。 [03:54.93]僕にとって、地球上で一番美しくて悲しい場所。 [04:01.56]それは、王子さまが到着し、 [04:04.88]去っていった砂漠のあの場所だ。 [04:11.64]いつか、貴方がアフリカの砂漠を旅して、 [04:15.29]そこを通りかかったら、 [04:18.58]先を急がず、 [04:20.84]真上に輝く小さな星の下で、 [04:23.98]少し待っていてほしい。 [04:29.11]髪が金色で、よく笑って、 [04:34.59]貴方の質問には答えようとしない子供が現れたら、 [04:39.86]それが誰か、貴方にもきっと分かるだろう。 [04:47.78]その時はどうか、親切な気持ちになって、 [04:53.08]僕を思い出してほしい。 [04:57.96]悲しみに沈んでいる僕にすぐに [05:00.92]手紙を書いてほしいのだ。 [05:07.34]彼が帰ってきたよっと。 [05:11.35]-終わり-