[ti:] [ar:] [al:] [offset:0] [00:01.35]地球 [00:31.51]こういうわけで、 [00:33.00]七番目の星が地球だった。 [00:37.18]地球に着いた王子さまは、 [00:39.52]人っ子一人いないことに驚いた。 [00:43.20]「もしかして、星を間違えたかな。」と、 [00:47.35]不安になってきた。 [00:50.49]その時、 [00:51.83]月色の輪が砂の中で解(ほど)けた。 [00:59.39]王子さまは一応声を掛けてみた。 [01:03.62]「こんばんは。」 [01:05.93]「こんばんは。」 [01:07.93]「この星は、何と言う星?」 [01:11.25]「地球だよ。アフリカさ。」 [01:14.64]「そうか。 [01:16.34]それじゃ、地球には誰もいないの?」 [01:20.41]「ここは砂漠だからね。 [01:22.99]砂漠には誰もいない。 [01:25.43]地球は大きいんだよ。」 [01:29.29]王子さまは、岩に座って空を見上げた。 [01:36.55]「星がキラキラ光っているのは、 [01:39.14]旅をしている僕たちみんなが [01:41.94]いつか自分の星に帰る時、 [01:44.55]すぐに見つかるようにかな。 [01:47.65]見て、あれが僕の星。 [01:50.97]ちょうど真上にある。 [01:53.43]でも、なんて遠いんだ。」 [01:58.94]「綺麗な星だね。 [02:02.05]なぜ地球に来たんだい?」 [02:05.70]「僕、花とうまくいっていないんだ。」 [02:11.50]「そうか。」 [02:13.91]「人間はどこ? [02:15.82]砂漠って、ちょっと寂しいよね。」 [02:20.06]「人間がいても寂しいさ。」 [02:23.89]「君って、変わった生き物だね。 [02:27.82]指みたいに細くて。」 [02:30.03]「でも、王様の指よりずっと強いんだよ。」 [02:34.89]「そんなに強いはずはないよ。 [02:37.25]足もないし、旅も出来ないじゃない?」 [02:41.71]「私は船より遠くにお前を連れて行ける。」 [02:47.70]蛇は、金のブレスレットのように [02:50.98]王子さまの足首に巻き付いた。 [02:55.71]「私は、触れた物を皆土へと返してやる。 [03:01.50]しかしお前は、純粋無垢で、 [03:05.05]星からやって来たという。」 [03:09.17]王子さまは、何も答えなかった。 [03:14.44]「可哀相に。 [03:16.79]この岩だらけの星で、 [03:19.11]お前は斯(か)くも弱い。 [03:22.43]いつか、 [03:24.03]自分の星が恋しくてたまらなくなったら、 [03:27.73]私が力を貸してやろう。」 [03:31.36]「分かったよ。 [03:33.11]でも、どうして君はいつも [03:35.78]謎めいた話し方をするの?」 [03:39.16]「私には、全ての謎が解けるからさ。」 [03:45.78]そして、どちらも黙り込んだ。 [03:55.82]王子さまは高い山に登った。 [04:00.62]これまで、山と言えば、 [04:03.16]膝の高さの三つの火山しか知らなかった。 [04:07.39]死火山は、腰掛代わりに使っていた。 [04:13.59]「こんなに高い山からなら、 [04:15.89]この星も人間も全て一目で見渡せるぞ。」 [04:21.77]しかし見えたのは、 [04:23.64]針のように鋭く切り立った [04:25.49]岩山の頂ばかりだった。 [04:29.49]「こんにちは。貴方は誰? [04:39.34]友達になってよ。僕、寂しいんだ。」 [04:50.28]王子さまは、 [04:51.61]それが木霊(こだま)だと知らないので、 [04:54.50]こう考えた。 [04:57.89]「変な星だな。 [05:00.05]どこもかしこも乾いていて、 [05:02.35]尖(とん)がっていて、塩辛い。 [05:05.92]人間には想像力がなくて、 [05:08.69]言われたことを繰り返すだけ。 [05:12.02]僕の星には、花が咲いていた。 [05:13.37]あの花はいつも先に話しかけてきた。」 [05:22.89]砂と岩と雪の中を [05:25.03]長い間歩いてきた王子さまは、 [05:28.67]ようやく一本の道を見つけた。 [05:33.54]そして、 [05:34.76]道は必ず人間がいる場所へと通じている。 [05:40.48]王子さまの行き着いた先は、 [05:42.94]薔薇の花が咲き揃った庭園だった。 [05:53.12]「こんにちは。」 [05:54.99]「こんにちは。」 [05:57.04]王子さまは薔薇たちを凝視(ぎょうし)した。 [06:00.99]どれも王子さまの花にそっくりだった。 [06:05.27]「君たちは誰なの?」 [06:09.11]「私たちは薔薇よ。」 [06:12.17]「そんな!」 [06:14.43]王子さまはとても悲しい気持ちになった。 [06:19.41]王子さまの花は、 [06:21.35]自分は宇宙で [06:22.29]たった一つだけの存在と語っていた。 [06:26.50]それなのに、 [06:27.71]この庭園だけで [06:29.38]同じ花が五千本もあるなんて。 [06:33.40]「あの花がこれを見たら、 [06:35.65]酷く傷つくだろうな。 [06:39.17]笑いものにならないように [06:41.37]激しく咳をして、 [06:43.02]死んだふりをするかも。 [06:45.53]そして僕は [06:47.13]花を介抱するふりをしなきゃいけなくなるんだ。 [06:51.16]そうしないと、 [06:52.69]僕に恥じ入らせようとして、 [06:55.10]本当に死んでしまう。」 [06:58.29]そして、王子さまはこう思った。 [07:04.90]「この世に一つしかない花を持っていて、 [07:08.07]豊かだと思っていたけど、 [07:10.43]僕が持っていたのは [07:12.79]ただの有り触れた薔薇の花だったんだ。 [07:16.49]あとは膝までの高さしかない [07:19.10]三つの火山。 [07:21.07]そのうちの一つは [07:22.94]永久に火が消えたままかもしれない。 [07:26.84]これじゃ僕は [07:28.70]立派な王子にはなれないよ。」 [07:32.88]そして王子さまは、 [07:35.38]草の上に突っ伏して、泣いた。