[00:00.75]星の王子さま [00:04.05]原作:アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ [00:10.18]王子さま:保志総一朗 [00:13.67]パイロット:諏訪部順一 [00:22.73]六歳の時僕は、 [00:24.74]体験談という [00:26.06]原生林について書かれた本で [00:28.55]素晴らしい挿絵を見たことがある。 [00:32.39]それは、 [00:33.66]大蛇のボアが猛獣を飲み込もうとしている絵だった。 [00:38.63]本にはこんな説明があった。 [00:43.71]ボアは獲物を噛まずに丸ごと飲み込みます。 [00:48.34]すると動けなくなるので、 [00:50.68]獲物を消化する半年もの間、ずっと眠って過ごします。 [00:56.92]僕はジャングルでの冒険についていろいろと考え、 [01:01.53]自分でも色鉛筆を使って、 [01:04.07]生まれて初めての絵を描き上げた。 [01:07.94]その傑作を大人たちに見せ、怖いかどうか聞いてみた。 [01:13.54]すると、こんな答えが返ってきた。 [01:19.32] どうして帽子が怖いんだい? [01:24.39]帽子の絵なんかじゃなかった。 [01:27.80]ゾウを消化しているボアを描いたのだ。 [01:31.74]でも、大人にはわからないらしいので、 [01:35.63]今度はボアの内側の絵を描いてみた。 [01:40.19]大人には何時だって説明が必要なのだ。 [01:44.99]僕の二番目の絵では、 [01:46.85]ちゃんとボアの中にいるゾウが見えていた。 [01:51.10]しかし大人たちは中が見えようが見えまいが、 [01:55.25]ボアの絵は片付けて、 [01:57.16]地理や歴史、算数や文法の勉強をしなさいと、僕を窘めた。 [02:04.94]こうして、6歳にして僕は偉大な画家になるという夢を諦めた。 [02:12.68]作品第一号と第二号が共に不評で、 [02:16.50]気持ちが挫けてしまったのだ。 [02:20.99]大人というのは、自分たちとは全く何もわかっていないから、 [02:25.60]いつも子供の方から説明してあげなきゃいけなくて、うんざりする。 [02:31.90]僕は別の仕事を選ぶ必要に迫られて、 [02:35.69]飛行機の操縦士になった。 [02:39.11]そして、世界中をあちこち飛び回った。 [02:44.12]地理は確かに役に立った。 [02:47.50]僕は一目で中国とアリゾナを見分けることができる。 [02:52.94]夜間飛行で迷った時など、そういう知識があると本当に助かる。   [02:59.01]これまでの人生で、僕はたくさんの重要人物と知り合った。 [03:04.98]随分多くの大人たちと一緒に暮らしたし、 [03:08.11]マジカにも見てきた。 [03:12.02]それでも僕の考えは、あまり変わらなかった。 [03:17.65]僕は物分りのよさそうな人に出会った時には必ず、 [03:22.55]肌身離さず持ち歩いていた作品第一号を見せ、実験していた。 [03:29.68]その人が本当に物事の分かる人かどうか、知りたかったから。 [03:36.59]でも、答えはいつも同じだった。  帽子だね。 [03:45.08]その後僕は、ボアの話も、原生林の話も、星の話もしなかった。 [03:55.11]話を合わせて、ブリッジやゴルフや、政治やネクタイの話をした。 [04:02.11]するとその大人は話が分かる相手と知り合えたと言って喜ぶのだ。