語り:中惠光城 ーー遠い、昔の物語。 とある都市の神殿に、女神の力を与えられた少女と、 彼女を守るために招かれた魔術師の男が暮らしいていました。 触れたものを壊し、真実へ近付く者を死へと誘う少女の金色の瞳は、『エクリス』と呼ばれていました。 ある日、男は少女を『花』のようだと言いました。 都市の外側にある広い世界を知っていた男は、 閉じ込められた狭い場所で、夢を見せながら散っていくだけの存在を、何よりも哀れだと考えたのです。 しかし、少女は微笑みながら答えました。 「哀れではあれまさんよ。花に心はあれませんから」 偽りの世界で真実を知らずに生きること。 それこそが、人に与えられた幸せなのだと。 本当に哀れなのは、花を哀れだと思うこと。 独りを寂しいと思う心、そのものだと……。