『多くの信徒を集め、ミラシュカの国までその名前が伝わっている聖女、アナスタシア。 異例の拝謁が成立した表向きの理由は、献上品が過去に例のない神聖なものであったこと。 けれど、その裏では摂政グラハドがこの日の実現に向けて暗躍していて――――。 聖女は跪いて頭を垂れ、幼い王に向けて古びた箱を差し出した』 「このような出所の不確かな物……カタリナ様、私が代わりに!」 「ううん、いいの。神様の聖遺物に失礼があってはいけない。そうだよね?グラハド」 『幼い王の問い掛けに、摂政は恭しく頷いてみせた。 誰にも見せぬよう、口元に不穏な笑みを浮かべながら――――』 謁見の問を 歴戦の騎士でさえ気圧される 人知などでは 計れぬ重圧感が包んだ 虚言ではない 触れずとも容易に伝わってくるような 圧倒的な光輝 どのような身分の者の拝謁でも微笑を絶やしたことのない 幼い王は瞳を好奇に輝かせ そっと引き寄せられるように 疑いも持たず その手を伸ばした―――― 「えっ?これは……?痛い!痛いよぉっ!」 「カタリナ様!?貴様、一体何をっ!」 「恵まれし者よ。絶望を知らぬ王よ。気分はどうかな?苦しい?」 ah...両手で痛む頭を抑え 叫ぶカタリナ その声音は壮絶で 雰囲気に飲まれて 呆然と事態を眺めていた騎士達もようやく動き出す 「恥を知らぬ逆賊め。魔女の類か?捕らえろ!」 「私が魔女?あはっ、本当の魔女の怖さを知らないらしい」 首元に剣を向けられようと 一顔だにしない聖女は気怠く笑う 「あんなものが神の聖骸であるわけがない。 あれはそう、悪魔の遺骸だ」と 猛る激情 その矛を屍に向けた騎士達を蔑んで 激しい火をかけられて 黒炎あげ無言のまま聖骸は燃える 「あんなものはもう用済みだ。 この力さえあれば目的は遂げられるだろう」 容易く塵へと変わった "それ"はやっと望んでいた真実の 眠りへとつけたのだろうか? 聖女は神を見下し逆に十字を切った 「その場の意識が聖骸へと向いている間に、 幼い王の叫び声が消えていた。 まだ頭を抑えながらも、ふらふらとアーニィに寄りかかって……」 「――――大丈夫、もう平気。心配しないで」 強がる様子でもなく 汗を拭いにこやかにah...立ち上がる少女 「その人から手を離しなさい。 私の病気を取り払ってくれたお方なのだから」 慈愛に溢れた笑顔は 理解できず困惑に立ち尽くした アナスタシアさえ包み込む 女神のような完成された光を帯びて―――― 『聖骸とは、触れたものの望みに応じた力を授ける聖遺物。 誰が触れるか。どんな感情を持って触れるかで、 その意味は大きく変わるものだった』 「アーニィが聞かせてくれた幾つものお話。 そのお話の中のものでしかないはずの音楽がね、 頭の中に流れ込んできたの」 『聖骸に触れた後の頭痛はその音楽によるものではなく、 大量の情報が急激に 入り込んできたことが原因で――――』 「お話の中の音も、歌も。どれも素敵だった。 頭だってもう痛くならないんだよ?」 「白い感情には白い奇跡を、か。 いいえ、違う。これは力を得た人間の使い方と、感じ方の問題。 私はどこまでも穢れて――――」 『お礼をしたいからしばらく留まって欲しいという 幼い王の願いを固辞して、聖女は 静かにその場を後にする。 摂政グラハドだけが、そんな彼女に恨みがましい視線を向けて。 それ以外の人々は互いの顔を見やりながら、 カタリナが罪に問わないのであればと 何も言わずに道をあけていた』 「――――平和すぎる国 こんなところで権力を握っても、 どうせ使い物にならなかったでしょうね」