雨が降りしきる中 狐は男を待っていた 首元まである髪から ぽたり、ぽたりと水を滴(したた)らせながら じっと夕闇(ゆうやみ)を見つめる 右手に握った物のせいで やけに体が重く感じた 「傘くらい差したらどうだ。」 振り返ると、そこには男が立っていた いつもと変わらない男 その優しい笑顔を見るだけで 胸が締め付けられるように 痛い 「ねぇ。」 「なんだ。」 「あんた、与えのこと。」 その先は続けられない 帰ってくる答えなど分かっているのだ 握り締めた右手が強くいた 「どうした。」 この男はどうして私の物ではないのか この笑顔はどうして私だけに向かないのか この愛はどうして届かないのか すべて分かっているのに 何も分かりたくなどない 通うのない事実すべてが狐を狂気へと導く ただ男が欲しかった ほかには何も望まない 男からの愛が欲しかった だがその望みは狐という身分(みぶん)には相応(ふさわ)しくない 大きすぎる物だった 男にはもっと相応しい人がいるのだ そう、あの女のような ギラリと右手に握って物が光 もう後戻り(あともどり)はできない でも男と一緒なら この世の柵(しがらみ)に縛(しば)られ 結ばれの運命ならば いっそ二人で 「このようで結(むす)ばれないのなら、地獄で結ばれましょう。」 大きく振り上げた右手には 鈍く(にぶく)ひかるこばたが こうえがく右手は次第に強くなる雨とともに 男へと降り注ぎ(ふりそそぎ)