[00:00.76]雨が降りしきる中 [00:04.55]狐は男を待っていた [00:08.47]首元まである髪から [00:12.74]ぽたり、ぽたりと水を滴(したた)らせながら [00:15.88]じっと夕闇(ゆうやみ)を見つめる [00:18.69]右手に握った物のせいで [00:22.87]やけに体が重く感じた [00:26.07]「傘くらい差したらどうだ。」 [00:30.80]振り返ると、そこには男が立っていた [00:35.38]いつもと変わらない男 [00:39.71]その優しい笑顔を見るだけで [00:43.25]胸が締め付けられるように [00:45.91]痛い [00:48.46]「ねぇ。」 [00:50.28]「なんだ。」 [00:52.13]「あんた、与えのこと。」 [00:56.94]その先は続けられない [01:01.42]帰ってくる答えなど分かっているのだ [01:04.95]握り締めた右手が強くいた [01:08.34]「どうした。」 [01:11.01]この男はどうして私の物ではないのか [01:16.60]この笑顔はどうして私だけに向かないのか [01:21.90]この愛はどうして届かないのか [01:26.37]すべて分かっているのに [01:29.75]何も分かりたくなどない [01:32.03]通うのない事実すべてが狐を狂気へと導く [01:39.19]ただ男が欲しかった [01:42.77]ほかには何も望まない [01:46.29]男からの愛が欲しかった [01:49.07]だがその望みは狐という身分(みぶん)には相応(ふさわ)しくない [01:54.34]大きすぎる物だった [01:57.82]男にはもっと相応しい人がいるのだ [02:03.28]そう、あの女のような [02:08.72]ギラリと右手に握って物が光 [02:12.34]もう後戻り(あともどり)はできない [02:14.97]でも男と一緒なら [02:17.12]この世の柵(しがらみ)に縛(しば)られ [02:19.67]結ばれの運命ならば [02:21.34]いっそ二人で [02:23.06]「このようで結(むす)ばれないのなら、地獄で結ばれましょう。」 [02:32.15]大きく振り上げた右手には [02:35.10]鈍く(にぶく)ひかるこばたが [02:37.17]こうえがく右手は次第に強くなる雨とともに [02:42.42]男へと降り注ぎ(ふりそそぎ)