野良の記憶にあるはずない 遠い祖先への想いが不意に射し込んだ 声が彷徨い人が凪ぎ恨み辛みも眠りにつきそうな頃 舟を出そう 鏡の上に ほらご覧 水面にはわりとお似合いの二人 そうでしょ 流し目の月が笑う 鏡の上で何をしよう 何も無いさ こんな事ってあるかい はぐれた木の葉が右の肩をそっとかすめた そしてまた目が合った 舟を出そう 野良を起こさぬように ほらご覧 頭上には二人だけを見つめる満月 そうでしょ 野良が目を開けすぐ閉じた 笑った声でさえも 要らない時がある 濁ったときでさえも 必要な事がある おわり