作曲 : 片倉三起也 濃紅(こいくれない)へと沈む夕べに 土に撓(たわ)まぬまま 少しずつ朽ちるのは また一片の花弁 また一輪の薔薇(そうび) 蒼ざめ浮き立つ かつての純白(じんぱく) まだ薫りは仄かに まだ記憶を留めて すべて甘やかに 忘れよと告げるように いま私は妬(ねた)ましい 花の季(とき)が 硝子(がらす)を伝わる水滴(すいてき)眺め 凍(こご)えることのない 肌(はだ)を抱く爪は棘(とげ) 指先を触れもせず 囁きも交わさずに 遠離(とおざか)る影を 目を閉じ追っても 瞳から植えられて 胸の奥で何度も 開こうと藻掻(もが)く 一塊(いっかい)の赤い芽を 恋と呼んで 慈(いつく)しめばいいのですか まだ一片の花弁 まだ一輪の薔薇 外は騒ぐ風 通り過ぎる修羅 なお薫りは立ち篭(こ)め もうひとつあとひとつ この身の代(か)わりに 散り果ててゆくがいい 溜息も零さずに 叫び声も上げずに ただひとりの名を 塗り込め差す紅 ここは蔦(つた)の蔓延(はびこ)る 熱の籠もる温室(おんしつ) 咲きも枯れもせぬ わが薔薇だけの為の 誰かの手で織り込まれた 造花(ぞうか)のような