ここにある一つの儚い舞扇 柄のないこの扇に宿る彼の命よ 昔桜舞い散る 京の都で暮らす 名も無い絵かきの男は 一人筆を執り 色のない扇に桜の花びらを 散らせては彼の命描く 恋焦がれ風吹けば尊し 色に染め上げられた扇よ 今宵あなたへの募る愛を この舞にのせ歌ふ ❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀ ここにある一つの美しい舞扇 一面に描かれた桜の花扇 あれは雨降りし日に朝の東屋へ 一人駆け込んできたあなたとの出会い その雨に濡れた横顔惹かれて 少しずつこの心寄せた 黄昏にたゆたうこの想い 言の葉に載せ想い伝えた 春雨に暗れ惑うあなたは 一言だけを残して・・・ ❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀ 散りゆく桜の花びらは 彼の命だけ奪い去って 春霞の中消えるあなたの 背中追い続けた 恋焦がれ風吹けば尊し 色に染め上げられた扇よ 今宵あなたへの募る愛を 舞にのせ歌えば 夜半の彼方へ続く ❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀ ここにある一つの儚い舞扇 桜散る暁に今あなたの元へ・・・ 終わり