第十三課 擬声語と擬態語 本文 次のように、物音や動物の鳴き声を表す語を擬声語といいます。 「雨戸がガタガタと鳴る。」 「太鼓をトントンとたたく。」 「メーメーと羊が鳴く。」 「ワンワンと犬が吠える。」 また、次にように、物事の状態や身振りなどを、その感じがよく現れるように示す語を擬態語といいます。 「蝶がひらひら飛んでいる。」 「本が箱にぎっしりつまっている。」 「腕をぐるぐる回す。」 擬声語と擬態語は音節の組み合わせ方が、規則的な体系をなしているものがたくさんあります。 また、現代の文章では、擬声語は片仮名で書かれることが多いが、擬態語は平仮名用いられ、表記は一定していません。 会話(「ポンポン」や「にこにこ」という言葉について、正雄君と恵子さんが話し合っています。) 正雄 「ポンポンと手をたたく。」って言うだろう。なんだと思う、「ポンポン」って。 恵子 音がしたことでしょう。「はさみでチョッキンチョッキン。」って言うのも、同じだわ。 正雄 そうだね。「カーンとホームラン。」とも言うね。ほかに、どんな言い方があるかな。 恵子 「パラパラ雨が降る。」「トントン戸とをたたく。」たくさんあるわ。 正雄 「パラパラ」「トントン」ね。「ガヤガヤ」「パタパタ」というもあるね。 恵子 正雄さん、「パラパラ」とか「ガヤガヤ」とか、繰り返す言葉が多いわね。 正雄 本当だ。ほかに、もっとあるかなね。 恵子 ええと。「ザーザー雨が降る。」「にこにこ笑う。」これも繰り返しよ。 正雄 ちょっと待って。「ザーザー」「にこにこ」――。 両方とも繰り返しには違いないけれど、違うよ。 恵子 どうして。 正雄 「ザーザー」や「ポンポン」は音だけれど、「にこにこ」なんていう音はないもの。 恵子 そうね。「くねくね曲がる。」「ざらざらした紙」なんかも、音じゃないわ。 音でないものは、なんと言えばいいのかしら。 正雄 なんかの様子だろう。 恵子 そう、様子を表す言葉ね。そうすると、音をあらわす言葉と、様子を表す言葉があるのね。 正雄 恵子さん、さっき「ざらざらした紙」って言ったけれど、「すべすべした紙」というのも、紙の様子だろう。 恵子 そうね。紙の様子でも、ずいぶん違うわね。 正雄 指で触った感じが違うんだよ。 恵子 音をあらわす言葉でも、同じような言葉あるかしら。 正雄 そうだなあ。 恵子 あ、これはどう。「トントン戸をたたく。」と「ドンドン戸をたたく。」、ずいぶん感じが違うでしょう? 正雄 うん。弱くたたく音と、強くたたく音の違いだね。 応用文 ツルの恩返しーーテレビ放送 題名の字幕が消えても、静かな音楽は、そのまま続いている。 画面は、雪の降る村はずれの風景である。背景は、池になっている。 語り手 むかしむかし、夫婦二人暮らしの農家がありました。 冬の間は、夫は毎日町へ薪を売り行きました。 池の岸から、薪を背負った農夫が現れる。すると、けたたましい鳴き声が聞こえる。 「なんだろう、あの鳴き声は。」 農夫は、はっと前方を見る。ツルが、罠にかかっている。 救いを求めるような鳴き声がする。羽ばたきの音が聞こえる。 農夫の背中の薪を放り出して、かけよってくる。 「おお、かわいそうに。よしよし、今、助けてやるぞ。」 農夫は、ツルの足をわなから外す。 ツルは、農夫に、二度も三度もお辞儀をして、大きく羽ばたき、舞い上がる。 農夫は満足げに見送っている。 語り手 雪は、夜になってもやみませんでした。 その夜、貧しげな農家の薄暗い土間で縄をなっている男。 ……そうです。今日町へ行く途中、ツルを助けてやった、あの農夫です。 炉端で、縫物をしているなは、その妻です。 二人とも、無言のままでいる。囲炉裏の火が、ちょろちょろ燃えている。 すると、若い女の声がする。 「ごめんくだいさい。ごめんください。」 「おやっ、誰が来たようだ。」 「まあ、だれだろう。こんな雪の降る夜更けた。」 ごめんください。ごめんください。」 「はあい、今開けてあげるよ。だれだね。」 農夫が立って戸を開ける。すると、みのを着た娘が現れる。 「だれだね。お前さんは。」 「はい、道に迷って、困っている者でございます。お願いです。どうか、ひと夜泊めてください。」 「ほう、道に迷ったのか。かわいそうに。この雪では道もわかるまい。だが、こんなあばら家では……。」 妻も、炉端から立って、二人のそばに来る。 「まあまあ、頭から雪をかぶって……。さあさあ、入って、火におあたりなさい。こんな汚い家だけれど……。」 「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えまして……。」 妻が、娘の手を取って、炉端へ行く。 語り手 そのあくる朝のこと、娘は一番早く起きて、掃除、食事の用意など、まめまめしく働きました。 そして、朝の食事の時です。 「お願いがございます。私は、両親に死に別れましたので、親類の家の世話になりたいと思って出てきたのです。 昨日まで、あちらこちらがしましたが、どうしてもその家がわかりません。 しばらく、この家に置いていただけないでしょうか。」 「そんなら、いっそ、うちの子になってもらおうか。うちには、子供がないことだし。」 「そうそう。こんな貧乏なうちだけど。」 語り手 そうして、娘は、この家の子になりました。 さて、その夜、娘は、夫婦の前に手をついて言いました。 「お父さん、お母さん、お願いがございます。」 「ほう、なんだい。」 「私は、はたを織ることができます。どうぞ、機織り場を作ってください。」 「そうか、それはありがたい。それでは、早速機織り場を作ってあげよう。」 「もう一つ、お願いがございます。……私が機織り場にいるときは、決して、中でをご覧にならないでください。」 「それはまた、どういうわけで……。」 「そのわけは、どうかお聞きにならないでください。」 「そうか、お前が見るなと言うなら、わしは見ないよ。」 「私も、決して見ないことにしますよ。」 語り手 農夫は、さっそく、家の裏に、機織り場を作りました。 機織り場ができあがると、娘は夜もおそくまで、機を織りました。 機織り場の小屋。トンカラリ、トンカラリと、機の音がしてくる。 語り手 三日目の夜、娘は、機織り場から出てきて、一反の織物を夫婦の前に差し出しました。 「やっと、一反、織りあがりました。」 「まあ、なんとみごとなものだろう。見たことも、聞いたこともない、見事な織物。」 「これは、何という織物かね。」 「はい、綾錦と申します。これを町へ持っていって、売ってください。 きっと、良い値段で売れます。私は、これからも、毎日織り続けます。」 語り手 農夫は、あくる日、綾錦を町へ売りに行きました。その日の夕方のことです。 妻が、一人で、炉端で縫い物をしている。機織りの音が聞こえてくる。 「どう考えても不思議だ。あんな粗末な系で、どうして、あのような見事な織物ができるのだろう。 一目、覗いてみたいものだ。……いやいや、のぞいてはならぬと言われた。 ……でもたった一目、覗いてみたい。……そうだ。「こっそりのぞいてみよう。」 妻が、そっと機織り場に近づき、窓から中をのぞいたとたんに、「あっ」と驚く。 機織り場の中でも、「あっ」と叫ぶ娘の声。 妻は、転がるようにして、家の中に駆け戻り、ぺたんと座ったまま、大きな息をしている。 そこへ、夫が帰ってくる。 「おい、喜んでくれ。あの綾錦は、びっくりするほどの高く売れたぞ。」 「あの、あの、娘は、ツル……ツルだよ。機織り場中を覗いてみたら、ツルが機を織っていた。」 「えっ、ツルだって。……なんで、機織り場の中を見たのだ。」 「ご、ごめんなさい。一目、見たくて、見たくて……。」 間も無く、娘が機織り場から出てきて、夫婦の前に両手をつき、泣きながら語る。 「実は、私は、この間助けていただいたツルでございます。 御恩返しに、一生、おそばで働こうと思って、参ったのでした。 綾錦は、私の胸の毛を使って織ったものでございます。 けれども、ツルの正体を見られたので、もう人間の姿でいることが、出来なくなりました。 それでは、お別れしなけばなりません。どうぞ、お二人とも、いつまでも達者で……。 娘は、泣きながら外に出ていく。 夫婦は、慌てて、その後を追う。娘の姿ぱっとツルに変わる。 ツルは、一声、悲しげに鳴いて、舞い上がり、家ノ上を二、三度回ってから、夕もやの中に見えなくなる。 音楽と共に「終わり」の文字が出る。(東京外国語大学付属日本語学校編「日本語」による) 単語 擬声語 擬態語 物音 鳴き声 雨戸  ガタガタ(と/する) 太鼓 トントン(と) メーメー(と) 羊 ワンワン(と) 犬 吠える 蝶 ひらひら(と) ぐるぐる(と) 音節 規則的 体系 なす 文章 表記 一定 ポンポン(と) 正雄 恵子 はさみ チョッキン カーン(と) ホームラン(home run) パラパラ(と) ガヤガヤ(と) パタパタ(と) ザーザー くねくね(と/する) ざらざら(と/する) すべすべ(と/する) 指 触る 鶴 恩返し 字幕 村はずれ 語り手 二人暮らし 薪 農夫 けたたましい 前方 罠 罠にかかる 救い 背中 外す 羽ばたく 舞い上がる 見送る 薄暗い 土間 縄 なう 炉端 縫い物 とも 無言 囲炉裏 ちょろちょろ(と) 蓑 泊める あばら家 甘える 明くる まめまめしい 親類 いっそ 貧乏 機 織る 羽織場 小屋 トンカラリ 反 差し出す なんと 見事 織物 綾錦 こっそり(と) そっと 駆け戻る ぺたんと 息をする なんで 胸 正体 追う 一声 悲しげ 夕もや