第二十課 ながら族 近年来、ラジオを聞いたり 音楽を聞いたりしながらでなければ 仕事のできない人種が現われたした。 このような人々を「ながら族」という たとえば、私の弟に完全名ながら族で 弟の部屋でラジオの音がするということは 弟が勉強しているということの最も確かな証拠である。 私は、前に一度、弟にラジオを聞きながら勉強するのはやめるようにと注意したことがある。 すると、弟の友だちの中には、 ラジオではジャズを聞き、 テレビでは野球を見ながら宿題をする子さえいるのだという。 ながら族になってしまった人の話によると 一度音楽を聞きながら勉強したりするのが癖になってしまうと もう音楽を聞かずには 、勉強も仕事もできないのだそうだ。 私のように、そのような習慣のない者にとっては、 そんな事はとてもできない いずれにせよ、仕事や勉強の能率が上がればよいのであって 一概に、どちらが良いとも悪いとも言えないのかも知れない すまないけど、うるさいから、ラジオのボリュームを小さくしてくれないか ラジオがうるさいって。 うん。 僕はながら族なんだ。 ラジオを聞いたり、音楽を聞いたりしながらでなければ、 勉強ができないんだよ。 そうかい。実は、僕の弟もながら族になってしまって、 、困ってるところなんだ。 困ることはないさ。 。仕事さえちゃんとすればいいんだから、 一概にどっちがいいとも悪いとも言えないだろう。 このごろ音楽を聞きながら勉強するのが癖になっちゃってね。 じゃ、君もながら族になったんだよ。 一度そんなことが癖になると 音楽を聞きながらでなければ、 仕事をしたりすることができなくなってしまうんだ。 うん、そうなんだよ。 この間、おやじに、ラジオを消して勉強するようにって注意されたから ラジオを消してみたんだ。 そうしたら、ぜんぜん勉強ができないんだよ そういうもんだそうだね。 「そういうもんだそうだね」って、 、君はながら族じゃないの。 うん。僕のように、ながら族になっていない者にとっては 音楽を聞きながら勉強することはとうていできないね。 そうかね。弟の話によると、 友だちの中には、 、驚いたことに テレビもラジオもつけておいて 宿題をする子さえいるんだそうだよ。 まったくすごいやつが現われだしたもんだね。 応用文 ツルの恩返しーーテレビ放送 題名の字幕が消えても、静かな音楽は、そのまま続いている。 画面は、雪の降る村はずれの風景である 背景は、池になっている。 むかしむかし、夫婦ふたり暮らしの農家がありました。 冬の間は、夫は毎日町へたきぎを売りに行きました。 池の岸から、たきぎを背負った農夫が現れる。 すると、けたたましい鳴き声が聞こえる なんだろう、あの鳴き声は 農夫は、はっと前方を見る。 ツルが、わなにかかっている。 救いを求めるような鳴き声がする。 はばたきの音が聞こえる。 農夫が背中のたきぎをほうり出して、かけよってくる。 おお、かわいそうに。よしよし、今、助けてやるぞ。 農夫は、ツルの足をわなからはずす ツルは、農夫に、二度も三度もおじぎをして 大きくはばたき、舞い上がる。 農夫は満足げに見送っている。 雪は、夜になってもやみませんでした。 その夜、貧しげな農家のうす暗い土間でなわをなっている男。 ……そうです。 きょう町へ行く途中、ツルを助けてやった、あの農夫です 炉辺で、縫い物をしているのは、その妻です。 ふたりとも、無言のままでいる。 いろりの火が、ちょろちょろ燃えている。 すると、若い女の声がする。 ごめんください。ごめんください おやっ、だれか来たようだ。 まあ、だれだろう。こんな雪の降る夜ふけに ごめんください。ごめんください。 はあい、今開けてあげるよ。だれだね。 農夫が立って戸を開ける。 すると、みのを着た娘が現れる だれだね。おまえさんは はい、道に迷って、 困っている者でございます。 お願いです どうか、ひと晩泊めてください。 ほう、道に迷ったのか かわいそうに この雪では道もわかるまい。 だが、こんなあばら家では… 妻も、炉辺から立って、ふたりのそばに来る。 まあまあ、頭から雪をかぶって……。 さあさあ、入って、火におあたりなさい。 こんなきたない家だけれど……。」 ありがとうございます。 それでは、お言葉に甘えまして……。 妻が、娘の手をとって、炉辺へ行く そのあくる朝のこと 娘はいちばん早く起きて 掃除、食事の用意など、 まめまめしく働きました。 そして、朝の食事の時です。 お願いございます わたしは、両親に死に別れましたので、 親類の家の世話になりたいと思って出てきたのです きのうまで あちらこちらさがしましたが どうしてもその家がわかりません。 しばらく、この家に置いていただけないでしょうか。」 そんなら、いっそ、うちの子になってもらおうか。 うちには、子供がないことだし そうそう。こんな貧乏なうちだけど そうして、娘は、この家の子になりました。 さて、その夜、娘は、夫婦の前に手をついて言いました。 お父さん、お母さん、お願いがございます ほう、なんだい。 わたしは、機と織ることができます どうぞ、機織り場を作ってください。 そうか、それはありがたい。 それでは、さっそく機織り場を作ってあげよう もう一つ、お願いがございます。 ……私が機織り場にいるときは、 決して、中をごらんにならないでください。」 それはまた、どういうわけで……。 そのわけは、どうかお聞きにならないでください。 そうか、おまえが見るなと言うなら、わしは見ないよ。 わたしも、決して見ないことにしますよ 農夫は、さっそく、家の裏に、機織り場を作りました。 機織り場ができあがると 娘は夜もおそくまで、機を織りました。 機織り場の小屋。 トンカラリ、トンカラリと、機の音がしてくる。 三日めの夜、娘は、機織り場から出てきて 一反の織物を、夫婦の前に差し出しました。 やっと、一反、織りあがりました まあ、なんとみごとなものだろう。 見たことも、聞いたこともない、みごとな織物。 これは、何という織物かね はい、あやにしきと申します これを町へ持っていって、 売ってください。 きっと、良い値段で売れます わたしは、これからも、毎日織り続けます。 農夫は、あくる日、あやにしきを町へ売りに行きました。 その日の夕方のことです。 妻が、ひとりで、炉辺で縫い物をしている 機織りの音が聞こえてくる。 どう考えても不思議だ あんな粗末な糸で どうして、あのようなみごとな織物ができるのだろう ひと目、のぞいてみたいものだ。 ……いやいや、のぞいてはならぬと言われた ……でもたったひと目、のぞいてみたい。 ……そうだ。こっそりのぞいてみよう。 妻が、そっと機織り場に近づき、 窓から中をのぞいたとたんに、 「あっ。」と驚く 機織り場の中でも、「あっ。」と呼ぶ娘の声。 妻は、ころがるようにして、家の中にかけもどり、 ぺたんと座ったまま、 大きな息をしている。 そこへ、夫が帰ってくる。 おい、喜んでくれ。あのあやにしきは、びっくりするほど高く売れたぞ。 あの、あの、娘は、ツル……ツルだよ 機織り場の中をのぞいてみたら、ツルが機を織っていた えっ、ツルだって。 ……なんで、機織り場の中を見たのだ。 ご、ごめんなさい。ひと目、見たくて、見たくて……。 まもなく、娘が機織り場から出てきて、 夫婦の前に両手をつき、泣きながら語る。 実は、わたしは、このあいだ助けていただいたツルでございます 。ご恩返しに、一生、おそばで働こうと思って 参ったのでした。 あやにしきは、わたしの胸の毛を使って織った物でございます。 けれども、ツルの生体を見られたので、 もう人間の姿でいることが、できなくなりました。 それで、お別れしなければなりません。 どうぞ、おふたりとも、いつまでもお達者で……。 娘は、泣きながら外に出ていく 夫婦は、あわてて、そのあとを追う。 娘の姿がぱっとツルに変わる ツルは、ひと声、悲しげに鳴いて、舞い上がり、 家の上を二、三度回ってから、 夕もやの中に見えなくなる 音楽と共に「終わり」の文字が出る。 単語ながら族 完全 一度 癖 いずれにせよ ボリューム おやじ(親父) とうてい(到底) やつ(奴) つる(鶴) 恩返し 字幕 画面 村はずれ 語り手 ふたり暮し たきぎ(薪) 農夫 けたたましい 鳴き声 前方 わな わなにかかる 救い 羽ばたき よしよし はずす(外す) 羽ばたく 見送る 薄暗い 土間 なわ(縄) なう(綯う) 炉辺 縫い物 とも 無言 いろり(囲炉裏) ちょろちょろ 夜更け はあい 戸 みの(蓑) 泊める あばら家 まあまあ さあさあ 甘える あくる(明くる) まめまめしい 親類 いっそ 貧乏 手をつく 機 織る 機織り場 わし 小屋 トンカラリ 反 差し出す なんと みごと 織物 あやにしき(綾錦) こっそり そっと 転がる 駆け戻る ぺたんと おい なんで(何で) 胸 正体 達者 ひと声 夕もや