第十三課 カード時代 カードを使うことが多くなった。 買い物をして、現金で払うかわりにカードで払う。 銀行に預金があれば、手元に現金が全然なくても、 たくさんの買い物ができる。 細かい金が必要なときは、 銀行の機械にカードを差し込めば 現金が出てくる。 ある会社では、身分証明書が支払いカードをかねていて、 社員食堂で食事をしてカードで払うと、 支払いの額が自動的に給料から引かれるそうである。実に便利な時代になった 現金を持っていると、落とすこともあるし、 どろぼうもいるのだから、カードのほうが安全である それに、札を何枚も持つより、 カードのほうが小さくて軽い。 そんなに便利なカードであるが 問題がないわけではない。 数日前の新聞に、 カードで買い物をするのはむだ遣いの原因になるから、 自分は絶対にカードは使わないという投書が出ていた。 目の前で札や貨幣が財布から出ていくと 金を使ったという実感が強いので 金を節約しようという気持ちになるが、 カードで払うと、その実感がないので、 気楽に金を使いすぎる結果になる、というのである。 現金でもカードでも、 必要なものは買い、 必要ではないものは買わないのが 理性のある人間の行動である しかし、いつも理性にしたがって行動することは、 難しいことである。 カード時代は、 人間に強さを要求する時代だといってもよいであろう。 会話 (一) (知人二人が話しながら道を歩いている。Aは女性、Bは男性。) すみません、ちょっと電話したいのですが。 いいですよ。 でも、いま電話があいていないから、少し待ちましょう。 ええ。(ハンドバックの中を捜す) ああ、このごろは電話もたいていカードですね ええ、買い物をレストランも わたしみんなカードです。 そうですか、ぼくは何でも現金です。 でも、カードのほうが安全ですよ、 現金は落とすこともあるし、どろぼうもいるし。 それはそうですが、カードはどうも実感がなくてね。 そうですか。 目の前で金が出ていくわけじゃないから 気楽に買い物をして、買いすぎるんです。 そうですか。 カードでも現金でも、 必要なものは買うし 必要でないものは買いませんけど、わたしは。 ぼくはだめですね。 意志が弱いから あ、電話があきましたよ。 あら、このカード、もう終わりですね。 それは残念。じゃ、この十円玉どうぞ。 (二)(夫婦の会話。デパートで。) あら、これ、かわいいね。買いましょうよ。 これと同じようなのが、うちにいくつもあるじゃないか。 でも、同じじゃないわ。少し違うわ。 ぼく、もうお金持ってないよ。 さっき君のクツを買ったもの。 いいのよ。わたし、カード持っているから。 カードはよくないよ。買いすぎるから カードのほうが便利よ。 それに消費税がつくと、一円玉が多くてめんどうですもの。 しかたがない。でも、きょうだけだよ、カードは。 コーヒーカップ二つじゃ少ないから、あそこのおさらも買いましょうよ。 あのさら、高そうだよ。 だいじょうぶよ。お金まだ残っているわ。 預金のことかい。 ええ。けさ銀行に行って確かめたの。 それはえらい。 あと三千円ぐらい残るから、 食堂で何か食べましょう。 じゃ、ここ、払うわね。(カードを出す) ちょっとちょっと、それ、ぼくのカードじゃないか。 そうよ。わたしのカードはもう残りがないもの。 応用文 レストランカード 都市に住む会社員A子さんの財布には 三枚のカードが入っている。 五%割引が魅力で作ったデパートのカード。 給与口座のある住友銀行のカード。 店員に勧められて作ってしまった丸井のカード。 使い過ぎがこわいから、数万円以上の買い物をする時に使う。 それぞれのカードには特典があるはずだが、 、利用したことはない。 住友銀行のカードと丸井のカードで、 料金が割引になるレストランがあるらしいと知ったのは最近のことだ。 改めてカードの会員誌を読んでみた。 カードの裏に新しくつくようになったマークを見せれば 飲物料金ほ一〇ないし二〇%が割引かれる、と書いてある。 なるほど、カードに、以前はなかったマークがついている けれど、そのために特別の会費を払っていないし 勘違いだったら恥ずかしいから、 利用したことがない。 「そういうお客さんがまだまだ多くて、 残念。どうか勇気を出して一度使ってほしい。」 力を入れるのは、このシステムの仕掛人である「開発センター」 カード割引システムの仕組みは難しくない 開発センターの社員が飲食店やホテル、 レジャー施設などを回って加盟店を募集する。 加盟料がいらないが、マークのついたカード会員には優待サービスをしてもらい 店の入口などにステッカーを張る こうした「開拓」経費はカードにマークをつけるクレジット会社が負担する。 「クレジット会社にしてみれば、 他社のカードと差がつく。 店にとっては、カードの会員誌で紹介されてPR効果が大きい。 もちろん、お客様はお得。 と自画自賛する。 しかし、店としては、喜んではいられない。 二〇%の割引分は店側の負担だし、 カード支払いの場合、 クレジット会社へ五%程度の手数料も払わなくてはならない。 「割引の引用客があまり多いとがっかり。 客の五%ぐらいが限度。」 というのが本音だ。 かといって、やめてしまうと、 サービスの点で見劣りがする。 レストランのカード割引で本当に得をするのはいったいだれなのだろう。 単語さしこむ(挿し込む) 身分証明書 支払い かねる(兼ねる) 額 実に 落とす どろぼう(泥棒) 札 むだづかい(無駄遣い) 投書 目の前 貨幣 実感 節約 気楽 理性 行動 知人 ハンドバック テレフォンカード 意志 弱い 夫婦 消費税 面倒 玉 コーヒーカップ えらい(偉い) 給与 口座 丸井 使い過ぎ 特典 改めて 会員誌 裏 マーク 飲食 ないし(乃至) 割引く 会費 勘違い どうか 勇気 仕掛人 飲食店 レジャー 加盟店 ステッカー 優待 開拓 経費 クレジット 他社 差がつく PR効果 自画自賛 店側 手数料 限度 見劣りがする