前文 日本語の試験はきのう終わりました。 試験の形式は学生に日本語の文章を翻訳させたり日本語で短かい作文を書かせたりする筆記試験と、会話をさせたり、録音を聞いて日本語で答えさせたりする口頭試験でした。 李さんのクラスは今、村松先生が教えています。 村松先生はとてもやさしい方で、学生にとても丁寧に教えます。 まず学生に聞かせたり、絵を見ながら言わせたりします。 それから、本を読ませたり、漢字を書かせたり、質問に答えさせたり、短文を作らせたりします。 また、ときどき、おもしろい話をして学生を喜ばせたり、冗談を言って笑わせたりします。 青木さんは日本人留学生で、将来、日本語教師になりたいと思っています。 彼は村松先生をたずねて、授業のやり方についていろいろ教えていただきました。 そして、将来、自分も村松先生のように日本語を上手に教えたいと思っています。 会話 青木:李さん、眠そうですね。ゆうべは徹夜でもしたんですか。 李:いいえ、徹夜はしませんでしたが、だいぶおそくまで起きていました。 青木:そうですか。それで、疲れた顔をしているんですね。ゆうべは勉強でしたか。 李:ええ。試験はきのう終わりましたけど、今までに習った単語や文型などを整理してみたんです。 青木:もうだいぶ勉強したでしょう。 李:ええ、整理してみたら、ずいぶんあるので驚きました。 青木:単語はどれぐらいありましたか。 李:はじめ一〇〇〇ぐらいだと思ったら、一五〇〇もありました。 青木:李さんのクラスは今どの先生が教えてくださっているんですか。 李:村松先生が教えてくださっています。 青木:村松先生はどんな方ですか。 李:村松先生はとてもやさしい方で、私たちを自分の子どものようにかわいがってくださいます。 青木:あなたがたは先生を困らせることがありますか。 李:ええ。宿題を怠けたり、いたずらをしたりして、先生を困らせることがあります。 また、先生に断らずに学校を休んで先生を心配させることもあります。 青木:先生を困らせたり、おこらせたり、心配させたりしてはいけませんね。 李:ええ、私たちもいけないと思っています。 これからは、先生を困らせるようなことをやめて、先生を喜ばせるようなことをやりたいと思っています。 青木:ところで、今度の試験は難しかったですか。 李:ええ、ちょっと難しかったのですが、だいたいできたようです。 青木:それはよかったですね。どんな形式の試験でしたか。 李:やはり筆記試験と口頭試験です。筆記試験では、日本語の文章を翻訳させられたり、日本語で五百字ほどの短かい作文を書かされたりしました。 青木:口頭試験は難しかったでしょう。 李:普通の会話はそれほど難しくなかったのですが、録音を聞いて日本語で答える問題はなかなか難しかったのです。 はやくて、よく聞き取れませんでした。 青木:それは難しそうですね。村松先生はふだん親切に教えてくださいますか。 李:ええ、わからないところがあるとわかるまで、とても親切に、ていねいに教えてくださいます。 その熱心な仕事ぶりにほんとうに感動させられます。 青木:村松先生はどのように教えてくださいますか。 李:はじめに前の日に教えたところを私たちに聞かせたり、絵を見ながら言わせたりします。 それから、本を読ませたり、漢字を書かせたり、質問に答えさせたり、短文を作らせたりします。 青木:新しいことばはどう教えますか。 李:まず新しいことばを使って、私たちに聞かせながら理解させます。それから、黒板に書いて、いろいろな例をあげて、私たちがわかるまで、新しいことばの意味を説明してくださいます。 青木:みなさんは授業中は中国語を使いますか。 李:いいえ、授業中はみんな日本語で話します。 中国語はあまり使いません。先生も中国語を使わず、日本語だけで教えてくださいます。 青木:村松先生はあなたがたにおもしろい話をしてくださいますか。 李:ええ、ときどきおもしろい話をして、私たちを喜ばせてくださいます。 また、ときどき冗談を言って私たちを笑わせます。 青木:そうですか。村松先生の教え方はほんとうに上手ですね。 わたしも将来日本語教師になるつもりですから、ぜひ一度村松先生をたずねて、日本語の授業についていろいろ教えていただきたいと思っています。 李:あしたは授業がありますから、村松先生はきっと大学にいらっしゃるに違いありません。 (翌日) 青木:村松先生の授業は学生にたいへん喜ばれているそうですが、先生はどのように教えるのでしょうか。 村松:まず学生に聞かせます。 青木:何度も聞かせますか。 村松:もちろん、何度も繰り返して聞かせます。 それと同時に、同じことを何度も言わせてみます。 青木:学生にまねをさせるのですか。 村松:そうです。正しく言えるようになるまで何度も言わせます。 青木:みんないっしょに言わせますか、それともひとりひとりに言わせますか。 村松:いっしょに言わせることもあれば、ひとりひとりに言わせることもあります。 青木:正しく言えない学生がいたらどうしますか。 村松:まずあせらないようにと言ってやります。 そして、どうして正しく言えないかを説明してやります。 それから、また何度も練習させます。 青木:正しく言えるようになったら、次にどんなことをやらせますか。 村松:次に読ませたり、書かせたりします。 青木:単語の意味はどう教えますか。 村松:まず絵や写真や実物などを使っておもしろく、楽しく勉強させます。 そのあと、適当な例をあげたりして、意味をわからせるようにしています。 青木:日本語を中国語に訳させたり、中国語を日本語に訳させたりしますか。 村松:わたしの授業では、訳させる練習をやっていません。 そのかわり、問いを出して、それに答えさせる練習をやっています。 青木:答えは口で言わせますか、紙に書いて答えさせますか。 村松:口で言わせることもあれば、紙に書いて答えさせることもあります。 青木:学生は先生の言うとおりによく勉強しますか。 村松:みんなまじめな学生ばかりですから、何をやらせてもわたしの言うとおりによくやります。 その熱心な勉強ぶりにはほんとうに感心させられます。 青木:授業中、学生はよく質問しますか。 村松:ええ、よく質問します。この前、「だ」と「である」の違いを質問されました。 わからないところがあったらすぐ質問するようにと、わたしはふだん学生に言ってあります。 青木:おかしい質問をされることはありませんか。 村松:ありますね。この間、張という学生に、日本語はなぜズボンを着ると言わないのかと質問されました、中国語をそのまま日本語に訳して考えているのですね。 青木:先生は学生をしかることがありますか。 村松:あります。この前、王という女子学生が宿題を怠けたので、きびしくしかりました。 そうしたら泣いてしまって、ずいぶん困りました。 青木:学生に泣かれるとほんとうに困りますね。 ところで、先生は授業中、ときどき冗談を言って学生を喜ばせるそうですね。 村松:ええ、ときどき冗談を言って学生を笑わせます。また、ときどきおもしろい話をして喜ばせてやります。 青木:先生はほんとうに授業がお上手ですね。将来、日本語を教える時に、わたしも先生のような授業をしてみたいと思います。 今日はいろいろ教えてくださってどうもありがとうございました。 単語 形式 けいしけ 短い みじかい 作文 さくぶん 筆記試験 ひっきしけん 口頭試験 こうとうしけん 村松 むらまつ 短文 たんぶん 冗談 じょうだん 笑う わらう 眠い ねむい 夕べ ゆうべ 今まで いままで 文型 ぶんけい 整理 せいり だいぶ 怠ける なまける いたずら 断る ことわる 字 じ 感動 かんどう 黒板 こくばん 例 れい いらっしゃる 繰り返す くりかえす 同時に どうじに 真似 まね 焦る あせる 実物 じつぶつ 訳す やくす そのかわり とい 口 くち 紙 かみ 可笑しい おかしい 女子学生 じょしがくせい 泣く なく 読解文 外国語の上達の道はコミュニケーションの体験を積み重ねることである。 これを説明するために、外国語の習得は自転車の乗り方を覚えるのと同じだという比喩がある。 つまり、自転車に乗れるようになるためには、自転車の構造や原理などをいくら学習しても無駄で、ともかくサドルにまたがって、ペダルを踏んでみなければならない。 外国語も同じように、その言語の文法構造などをいくら学習しても、それだけで話せるようにはならない。 話せるようになるには、ともかくその言語を使ってみなければならない。 つまり、コミュニケーションをしてみなければならないということである。 この比喩はいくつかの条件をつければ、正しいように思われる。 まず、自転車乗りについては、自転車の構造の知識はほとんどまったく役に立たないが、 外国語の習得については、文法などの知識は不可欠ではないが持っていれば、 習得が大幅に容易になると思う。 単語 習得 しゅうとく 上達 じょうたつ コミュニケーション 積み重ねる つみかさねる 比喩 ひゆ 構造 こうぞう 原理 げんり 無駄 むだ もとかく サドル 跨る またがる ペダル 条件 じょうけん つける 不可欠 ふかけつ 大幅 おおはば 容易 ようい