前文 日本語科の王先生は授業には熱心だし、学生には親切だし、みんなから尊敬されています。 先生の会話の授業ではいつも活発な遣り取りが行なわれています。 李さんは一年生の時に、王先生に教わったことがあります。 彼は勉強の態度が真面目で、成績がよかったので、王先生によくほめられました。 でも、同級生とけんかをして、叱られたこともありました。 けんかといえば、李さんも横山さんも子供のころ、よく兄弟げんかをしました。 しかし、李さんも横山さんも大人になってからは兄弟と仲がよくなり、お互いに助け合うようになりました。 上海の町では、いつも交通が混雑しているので、李さんは二度もひどい目に遭いました。 一度は後ろの人に押されて、手にけがをしてしまい、もう一度は人に足を踏まれて、血がたくさん出てしまいました。 ひどい目といえば、横山さんも、一度はすりに財布を掏られ、もう一度は悪者に襲われたそうです。 会話 横山:日本語科の王先生は学生たちに尊敬されていますね。 李 : ええ、王先生は授業には熱心だし、学生には親切だし、みんなからとても尊敬されています。 横山:李さんは王先生に教わったことがありますか。 李 :ええ、あります。一年生の時に日本語の発音と会話を教えていただきました。 会話の授業ではいつも活発なやりとりが行われていました。 横山:王先生はよく学生をほめますか。 李 :ええ、勉強の態度や成績がよかったらほめます。 横山:李さんも王先生にほめられたことがありますか。 李 :ええ、あります。 横山:叱られたこともありますか。 李 :ええ、叱られたこともあります。 横山: 何で叱られたのですか。 李 : 同級生と口げんかをして叱られました。 横山:どうして口げんかをしたんですか。 李 : ある日、掃除したばかりの教室に紙くずを散らかすので、私がきれいに掃けと言ったら、生意気だと言ったんです。 それで、口げんかになってしまいました。 横山: 教室を散らかしたりするのはよくありませんね。 李 :ええ。でも、私も悪かったんです。言葉づかいが乱暴だったので、彼が怒ってしまったんです。 横山:丁寧に言えば、けんかにならなかったかもしれませんね。 李 :ええ。でも、次の日に仲直りしてお互いにそれからはけんかをしないことにしました。 横山さんはけんかをしたことがありますか。 横山:けんかといえば、子どものころ、兄弟げんかをずいぶんしました。 弟と妹をいじめてばかりいると言って、よく母に叱られました。 今でも、時々昔のことが思い出されます。李さんには兄弟がありますか。 李 :はい、あります。一人っ子が多い今の時代ではめずらしいですが。 横山:何人兄弟ですか。 李 :私を入れて3人です。子どものころ、兄によく騙されたり、殴られたりしました。 横山:でも、兄弟げんかをして叱られるのは、たいていお兄さんのようですね。 李 :ええ、兄のほうがいつも両親に叱られていました。私は末っ子だったから、特に甘やかされていたらしいんです。 横山さんは今弟さんと妹さんをよく可愛がっているでしょう。 横山:ええ、高校生になる前までは、いつもけんかをしていましたが、高校の時、父に死なれて、暮らしに大変困ってしまいました。 その時から弟と妹に勉強を助けてやったりして、可愛がるようになりました。 李さんも今お兄さんと仲がいいでしょう。 李 :ええ、私たちも大人になってからは、一度もけんかをしたことがありません。 横山:おや、李さん、どうしたんですか。あなたのその手の傷は。 李 : この傷ですか。 横山:そうです。ずいぶんひどい傷ですね。 李 :ええ、この間、バスに乗ろうとした時、後ろから押されて転びました。これはその時の傷です。 横山:それは危なかったですね。 李 :本当ですね。上海のバスは込み合いますから気をつけないと大変なことになります。私がけがをしたのはこれで二度目です。 横山: 前にもけがをしたことがあるのですか。 李 : ええ。前には、バスの中で誰かに足を踏まれました。ちょうどその時、サンダルを履いていたので血がたくさん出て、しばらくは歩けませんでした。 それに、その日、帰る途中、大雨に降られて本当に困りました。 横山: それはひどい目にあいましたね。 李 :ええ、ところで横山さん、あなたは何かひどい目にあったことがありますか。 横山: ええ、ありますよ。まだ日本にいたころのことなんですけど、込んだ電車の中ですりに財布をすられました。 李 :そうですか。それは災難でしたね。 まったく油断ができませんね。ほかに、何かこわい目にあったことがありますか。 [06:16.33 李 : ええ。 横山:ありますよ。ある日、私が一人で郊外をドライブしている時に、ヒッチハイクをしている若い二人連れを乗せたんです。 そうしたら、なんと、それは悪者だったんですよ。 李 :ええ!それで? 横山:ええ、ナイフを突きつけられて、あり金を全部とられてしまったんです。 李 :へええ、はじめ、怪しいとは思わなかったんですか。 横山: とてもそういうふうには見えませんでしたからねえ。 李 :そうですか。本当に危なかったですね。 横山:ええ、それからは、知らない人は絶対に乗せないことにしました。 単語 尊敬 そんけい 活発 かっぱつ 行なう おこなう 教わる おそわる 態度 たいど 成績 せいせき 褒める ほめる 同級生 どうきゅうせい 喧嘩 けんか 叱る しかる 横山 よこやま 兄弟 きょうだい 仲 なか 助け合う たすけあう 混雑 こんざつ 目に遭う めにあう 後ろ うしろ 踏む ふむ 血 ち 掏摸 すり 財布 さいふ 掏る する 悪者 わるもの 襲う おそう 口げんか くちげんか 紙くず かみくず 散らかす ちらかす 掃く はく 生意気 なまいき 言葉(ことば)づかい 乱暴 らんぼ 怒る おこる 仲直り なかなおり いじめる 思い出す おもいだす 騙す だます 殴る なぐる 末っ子 すえっこ 甘やかす あまやかす 可愛がる かわいがる 高校生 こうこうせい 死ぬ しぬ 暮らし くらし 傷 きず 転ぶ ころぶ 込合う こみあう サンダル それに 大雨 おおあめ 災難 さいなん まったく 恐い こわい ドライブ ヒッチハイク 若い わかい ふたり連れ ふたりづれ 乗せる のせる なんと 突きつける つきつける あり金(がね) へええ 怪しい あやしい 読解文 うばすての話 あるおばあさんが息子に背負われて山の中へ捨てられに行く時、何度も木の枝を折って道に捨てました。 そのわけを息子にたずねられて、おばあさんは「お前が帰る時の道しるべだ」と言いました。 そう言われて、息子は涙を流し、またおばあさんを背負って家へ帰りました。 これは日本の昔話です。もちろん今ではこんなことはありません。 昔の日本には、貧しい百姓の間に、「うばすて」という風習がありました。 貧しくて老人を扶養することができないから山に捨てたのだそうです。 これと似た話は「楢山節考」という小説にも書かれています。 日本は戦後、大きな発展を遂げましたが、今、老人問題などいろいろな社会問題が生まれ、人々から大きな関心がもたれています。 日本では「恍惚の人」という言葉がよく使われます。 これは惚けた老人という意味で言われています。 もともとは小説の題名です。 老人問題は若者を含めて私たちみんなの生きがいの問題ですから、よく考えなければならないと思います。 単語 姥捨 うばすて 息子 むすこ 背負う せおう 捨てる すてる 何度 なんど 木 き 枝 えだ 訳 わけ 道しるべ みちしるべ 涙 なみだ 昔話 むかしばなし 貧しい まずしい 百姓 ひゃくしょう 風習 ふうしゅう 扶養 ほよう 似る にる 楢山節考 ならやまぶしこう 戦後 せんご 遂げる とげる 関心 かんしん 恍惚 こうこつ 惚ける ぼける 題名 だいめ 若者 わかもの 含める ふくめる 生き甲斐 いきがい