今(いま)は昔(むかし) 古(ふる)き里(さと)の仇(かたき)を 追(お)い掛(か)けて幾千里(いくせんり) 化(ば)けた蜘蛛(くも)の主(ぬし)を殺(あや)め 毒(どく)に呪(のろ)われた躯(からだ) 朧月(おぼろづき)に痛(いた)む手脚(てあし) 見開(みひら)く眼(まなこ)に闇模様(やみもよう) 吐(は)いた糸(いと)が息(いき)を止(と)めて 倒(たお)れた命(いのち)は絶(た)える 苦(くる)しみも恨(うら)みさえ断(た)たれて 御空(みそら)を仰(あお)のく 誰(だれ)も訪(おとず)れぬ此(こ)の沼(ぬま)へ 羽(はね)が迷(まよ)い込(こ)みて もしも 其(そ)の想(おも)いが 哀(あわ)れな未練(みれん)が 君(きみ)を縛(しば)るのならば 倶(とも)に私(わたし)と逝(い)きましょうと云(い)う 妖(あや)かしの蝶(ちょう) 鮮(あざ)やかな袖(そで)を振(ふ)る 刻(とき)は過(す)ぎぬ 繋(つな)ぎ蝶(ちょう)を 憎(にく)みて追(お)い掛(か)けて幾千里(いくせんり) 「何(なに)を求(もと)め 何(なに)を遺(のこ)す?」問(と)いに囚(とら)われた御魂(みたま) 朧月(おぼろづき)は今(いま)も照(て)らす 静寂(しじま)に転(ころ)がる亡骸(なきがら) 腐(くさ)りながら骨(ほね)と化(か)せば やがては泥(どろ)に交(まじ)わる 現(うつつ)を択(え)るがため 届(とど)かぬ御空(みそら)に刃向(はむ)かう 桜(さくら)の花(はな)散(ち)る 此(こ)の故郷(ばしょ)で 独(ひと)り目醒(めざ)めるなら いつか 死(し)を誘(いざな)う 優(やさ)しき契(ちぎ)りが 誰(だれ)の救(すく)いと信(しん)じ 羽(はね)を集(あつ)めし竹籠(たけかご)抱(かか)える 蜘蛛(くも)の眼(め)の蝶(ちょう) 白銀(しろがね)の罠(わな)を張(は)る 夜(よる)に耀(かがや)く蜘蛛の網(くものい)を飾(かざ)る 空ろ木(うつろぎ)の名(な)を借(か)りて 枯(か)れた野原(のはら)に 黄昏(たそがれ)の街(まち)に 狂(くる)おしく咲(さ)く されど 其(そ)の想(おも)いを 哀(あわ)れな未練(みれん)を 嘆(なげ)き続(つづ)けるならば 千(せん)の祈(いの)りと灯(あかし)を弔(とむら)う 愛(いと)おしき蝶(ちょう) 艶(あで)やかな羽(はね)で舞(ま)え