4月11日 入学式 いきなり恋をした 一目惚れ 決して格好いい人ではないけれど、 なんかあたしのツボ 4月12日 驚き まさかの席が後ろ 彼は隣の席の男子と楽しげに話していた その夜考えた末、 私は記憶喪失の振りをすることにした そうしたら少しは構ってもらえる気がしたから 4月13日 何人かいた中学からの知り合いには、 口止めをしてた あたしのことを知らないふりをしておいてと 4月14日 ホームルームの後、 そういや、と彼に振り返られる 名前なんだっけ?何中? あたしは名前だけ答えて、 何中かは思い出せない、と答えた もちろん彼は不思議そうな顔をした それ以前の記憶がないから、と付け足した 明らかに彼の見る目が変わった 作戦、大成功 4月31日 今日は日曜 彼はあたしの記憶を思い出させるべく、 この町を親切に案内してくれた なにか思い出せない?と訊かれるが、 あたしは首を横に振る もちろんぜんぶ知ってる場所なのだけど 5月9日 毎日付け続けている日記を見て、不可解に陥る 昨日も彼と町を歩いたらしい でもそんな記憶あたしにはない 5月16日 日記を開くと、やはり昨日も彼と町を散策したらしい そんな気もするが、記憶が曖昧だ… 思い出せない… 5月31日 放課後、まだなにも思い出せない?と彼に尋ねられる うん、とだけ答えておく 6月4日 明日はお寺に行こうと彼が提案した 記憶が戻る祈願をしようと 小さな時から行き飽きていた場所 でも彼となら行こうと思った 6月6日 昨日の日記を読む 彼と明治神宮に行ったらしい そこでおみくじを引き、 彼は大吉、あたしは大凶を引いた 彼の提案で交換したようだが、 その行為に果たして意味はあるのか? 6月10日 携帯が鳴った 番号は非通知 何故か出る気になった 出ると相手はあたしそっくりの声で あたしの名を名乗った 相手はあたしに尋ねる あなたは誰? 6月13日 昨日も彼と町を歩いていたそうだ そんな記憶はない まるでもう一人のあたしが存在しているようだ 6月20日 昨日は彼とココナッツカレーを食べてご機嫌だったらしい そんなものを食べた記憶はない 一体、誰が彼と仲良くしているんだ? 6月24日 知らない女生徒に話しかけられる 上手くいってるみたいね、と不躾に言われる 何のことをこの人は言っているんだ? 分からない…分からない… 6月25日 また携帯が鳴る あたしからだった 邪魔だから消えて! とあたしは叫ぶようにお願いした すると、あなたの方が偽物なのよ、と返ってきた 偽物って何? どうしてこんなおかしな事に巻き込まれるの? あたしはただ、彼と仲良くなりたかっただけなのに… それだけなのに… 6月30日 授業とか上の空 眼の前に居る彼に話しかけたい 一体、あなたは誰と遊んでいるの? 6月31日 帰ってくると、 玄関に出てきた母が青ざめた顔で言った あなた今夕飯食べてるじゃない、と もう、帰る場所も無くなった あたしは家を飛び出した すべて記憶喪失の嘘から始まった 全部あれのせいだ あんな嘘付かなければよかったんだ あたし自身が、みんなの中から失われていく 嘘を付いてごめんなさい…ごめんなさい… ごめんなさい…ごめんなさい… 次目覚めると、ヘッドセットマイクを付けた女性が あたしを見下ろしこう告げた バグが発生しました、と