[00:17.510]4月11日 [00:19.520]入学式 [00:20.880]いきなり恋をした [00:22.900]一目惚れ [00:24.440]決して格好いい人ではないけれど、 [00:27.020]なんかあたしのツボ [00:29.080] [00:32.560]4月12日 [00:34.490]驚き [00:35.490]まさかの席が後ろ [00:37.470]彼は隣の席の男子と楽しげに話していた [00:41.300] [00:43.200]その夜考えた末、 [00:44.940]私は記憶喪失の振りをすることにした [00:48.630]そうしたら少しは構ってもらえる気がしたから [00:52.060] [00:55.420]4月13日 [00:57.310]何人かいた中学からの知り合いには、 [00:59.600]口止めをしてた [01:01.170]あたしのことを知らないふりをしておいてと [01:04.090] [01:05.020]4月14日 [01:06.460]ホームルームの後、 [01:07.550]そういや、と彼に振り返られる [01:09.920]名前なんだっけ?何中? [01:12.150]あたしは名前だけ答えて、 [01:14.130]何中かは思い出せない、と答えた [01:16.760]もちろん彼は不思議そうな顔をした [01:19.560]それ以前の記憶がないから、と付け足した [01:22.940]明らかに彼の見る目が変わった [01:25.530]作戦、大成功 [01:27.970] [01:28.840]4月31日 [01:30.600]今日は日曜 [01:31.900]彼はあたしの記憶を思い出させるべく、 [01:34.400]この町を親切に案内してくれた [01:37.010]なにか思い出せない?と訊かれるが、 [01:39.530]あたしは首を横に振る [01:41.580]もちろんぜんぶ知ってる場所なのだけど [01:44.300] [01:45.040]5月9日 [01:46.310]毎日付け続けている日記を見て、不可解に陥る [01:50.800]昨日も彼と町を歩いたらしい [01:53.460]でもそんな記憶あたしにはない [01:56.200] [01:57.250]5月16日 [01:59.000]日記を開くと、やはり昨日も彼と町を散策したらしい [02:03.370]そんな気もするが、記憶が曖昧だ… [02:07.080]思い出せない… [02:08.350] [02:09.330]5月31日 [02:11.170]放課後、まだなにも思い出せない?と彼に尋ねられる [02:15.250]うん、とだけ答えておく [02:17.230] [02:18.480]6月4日 [02:19.840]明日はお寺に行こうと彼が提案した [02:22.660]記憶が戻る祈願をしようと [02:25.020]小さな時から行き飽きていた場所 [02:27.550]でも彼となら行こうと思った [02:30.090] [02:32.670]6月6日 [02:34.240]昨日の日記を読む [02:35.780]彼と明治神宮に行ったらしい [02:38.230]そこでおみくじを引き、 [02:39.820]彼は大吉、あたしは大凶を引いた [02:43.140]彼の提案で交換したようだが、 [02:45.420]その行為に果たして意味はあるのか? [02:47.940] [02:48.850]6月10日 [02:50.310]携帯が鳴った [02:51.740]番号は非通知 [02:53.140]何故か出る気になった [02:55.110]出ると相手はあたしそっくりの声で [02:57.290]あたしの名を名乗った [02:59.030]相手はあたしに尋ねる [03:01.780]あなたは誰? [03:03.530] [03:05.040]6月13日 [03:06.710]昨日も彼と町を歩いていたそうだ [03:09.350]そんな記憶はない [03:11.210]まるでもう一人のあたしが存在しているようだ [03:14.020] [03:16.400]6月20日 [03:17.850]昨日は彼とココナッツカレーを食べてご機嫌だったらしい [03:21.310]そんなものを食べた記憶はない [03:24.240]一体、誰が彼と仲良くしているんだ? [03:27.320] [03:29.150]6月24日 [03:30.860]知らない女生徒に話しかけられる [03:33.300]上手くいってるみたいね、と不躾に言われる [03:36.370]何のことをこの人は言っているんだ? [03:38.950]分からない…分からない… [03:41.550] [03:44.670]6月25日 [03:46.220]また携帯が鳴る [03:47.610]あたしからだった [03:49.080]邪魔だから消えて! [03:50.290]とあたしは叫ぶようにお願いした [03:52.410]すると、あなたの方が偽物なのよ、と返ってきた [03:56.560]偽物って何? [03:58.020]どうしてこんなおかしな事に巻き込まれるの? [04:01.480]あたしはただ、彼と仲良くなりたかっただけなのに… [04:05.360]それだけなのに… [04:06.870] [04:08.470]6月30日 [04:09.940]授業とか上の空 [04:11.840]眼の前に居る彼に話しかけたい [04:14.430]一体、あなたは誰と遊んでいるの? [04:17.080] [04:20.280]6月31日 [04:22.010]帰ってくると、 [04:22.910]玄関に出てきた母が青ざめた顔で言った [04:26.170]あなた今夕飯食べてるじゃない、と [04:29.450]もう、帰る場所も無くなった [04:31.680]あたしは家を飛び出した [04:33.440] [04:35.790]すべて記憶喪失の嘘から始まった [04:38.680]全部あれのせいだ [04:40.470]あんな嘘付かなければよかったんだ [04:43.020]あたし自身が、みんなの中から失われていく [04:46.430]嘘を付いてごめんなさい…ごめんなさい… [04:49.920]ごめんなさい…ごめんなさい… [04:53.190] [04:55.630]次目覚めると、ヘッドセットマイクを付けた女性が [04:58.680]あたしを見下ろしこう告げた [05:00.990]バグが発生しました、と [05:03.030]