[00:00.00] [00:46.65]東京に戻ってきた私は、いつものようにプールサイドにいた [00:52.17]気が付くと、武の姿を探してしまう [00:55.89] [00:57.76]勝「先生、ね、先生」 [01:02.36]スミレ「え?あ、なに勝?」 [01:05.62]勝「もう休憩時間は終わり?泳いでいい?」 [01:09.93]スミレ「あ、うん、いいわよ」 [01:13.12]勝「先生」 [01:14.95]スミレ「なに?」 [01:16.53]勝「大丈夫?」 [01:18.55]スミレ「大丈夫って?」 [01:20.29]勝「武、もう、戻って来ないかな」 [01:24.76]スミレ「え?」 [01:26.16]勝「もう、僕達に、泳ぎを教えてくれないかな」 [01:32.65]スミレ「戻って来ないわよ」 [01:34.21]勝「どうして?」 [01:35.94]スミレ「どうしても」 [01:37.47] [01:41.93]スミレ「さあ、いいわよ」 [01:43.35] [01:52.37]いつもの夏、霞んだ空に浮かんだ入道雲 [01:57.69]武がいた時は、あんなにくっきり青かった空が、今はくすんでいる [02:04.63]武に会いたかった [02:06.67] [02:15.00]【武&スミレ start】 [02:17.04]来るはずはないのに [02:18.69]スミレが東京にいることが分かっているのに [02:21.88]ふらっと空港に行ってしまう [02:24.97]『この空港が花の匂いがするね』 [02:29.63]スミレは何故、あんなに急いで帰ってしまったんだろう [02:34.74]なんだか悲しそうだった [02:37.28]俺は、一緒にいる人を悲しくさせるんだろうか [02:43.80]『家の近所の公園で星を見た』 [02:47.05]波辺で星を見た [02:50.40]『屋久島に比べれば、瞬きの数は少なかったけれど、あの話を思い出した、武がしてくれたお話』 [03:00.03]太陽と月は兄弟だった、お母さんは二人を産んで死んだ [03:07.67]『太陽はお母さんの遺体を地球へ送り』 [03:10.51]その胸から星を引き出し、思い出として夜空へ舞えた [03:16.78]『もしかしたら、武も深い悲しみを抱えているのかもしれない、ふとそう思った』 [03:24.42]星を見ていたら、心の声がよく聞こえた [03:28.21]俺は、やっぱりスミレに会いたい [03:31.91]でも、会ってどうする、会って… [03:37.29]『私は自分のことばかりだった、自分を捨てた父の死を受け入れないで、もがくばかりだった、武の心をちゃんと見ようとしていなかった』 [03:49.43]スミレ、今、なにをしている [03:53.92]『行こう、もう一度会いに行こう』 [03:57.93]星がまた一つ、流れた [04:01.34]【武&スミレ end】 [04:06.54]勝「先生、大変、大変」 [04:09.78]スミレ「どうしたの勝?」 [04:12.06]勝「プールの底に、潜水員か海豚がいるよ」 [04:15.04] [04:20.46]武「っぷぉ…」 [04:24.25]スミレ「武…」 [04:26.10]武「ごめん、また飛び込んちゃった」 [04:30.86]スミレ「武…」 [04:32.08] [04:36.63]気が付いたら、私がプールに飛び込んでいた [04:40.51] [04:43.76]武「スミレ…」 [04:45.69]スミレ「武…」 [04:47.41]武「このままだと、息が、苦しくて…」 [04:52.32]スミレ「どうして?」 [04:53.64]武「ん?」 [04:54.89]スミレ「どうして?」 [04:56.84]武「どうしても、もう一度、会いたかったから」 [05:01.82]スミレ「あたしも、あたしも会いたかった、武…」 [05:06.58] [05:10.58]【插入曲start】 [06:35.49]再び、私は恵みの島に行った [06:40.21]いつしか、夏が終わろとしていた [06:43.14]【插入曲end】 [06:44.34]武「スミレ、飛んでいる蝶を見た?」 [06:47.09]スミレ「え?」 [06:48.00]武「雨の中、濡れずに、優雅に飛んでる揚羽蝶」 [06:53.07]スミレ「気が付かなかった」 [06:54.89]武「黒と黄色のコントラスト…森って不思議だね」 [07:00.61]スミレ「水がしっとりと体に巻き付く感じ」 [07:03.41]武「あ、雨があがった」 [07:05.47] [07:07.24]大木の隙間から、幾筋もの光が差し込んできた [07:13.11]海の底から空を見上げた時を思い出した [07:16.15] [07:18.23]スミレ「やっぱり、森も海の底と同じだね」 [07:22.38]武「あぁ。なぁ、スミレ」 [07:26.07]スミレ「なに?」 [07:27.39]武「これから、俺の家に来ないか?」 [07:30.34]スミレ「へ?」 [07:31.66]武「話したいことが、あるんだ」 [07:34.92]スミレ「うん」 [07:36.80] [07:40.09]武の家、あの畳の部屋 [07:45.31]武は、一枚の写真を手に取りながら話し始めた [07:49.52] [07:50.74]武「この写真しか残ってないんだ」 [07:53.32]スミレ「え?これ…奥さんと娘さんでしょう?」 [07:57.33]武「あぁ」 [07:59.87]スミレ「あたし、あなたが結婚してるなんて思わなかったから、この前ここに来た時、これ見て吃驚した」 [08:08.73]武「そっか、これ見たのか」 [08:12.28]スミレ「今奥さんと娘さんは?」 [08:15.49]武「奥の部屋に…」 [08:17.20] [08:19.28]奥の部屋、日の当たる場所で仏壇があった [08:24.78]武は、その前に正座して線香を点けた [08:28.35] [08:29.97]スミレ「武…」 [08:32.60]武「ナイトダイビングで、仲間と消えてた。朝方戻ると、家が焼けていた、火事だった、煙をいっぱい吸い込んで、女房と娘は、灰になった」 [08:50.35]スミレ「武…」 [08:52.28]武「跡形もなくなって、如何にも遣りきれなくなって、どこかに行きたくなって、それで…東京に行った。夏休みに東京に連れていくって、娘と約束してたんだ。そして、スミレに会った。初めて会ったのに、そんな気がしなかった。この人の傍に居たいと思った」 [09:21.08]スミレ「わたしも…」 [09:22.67]武「でも、やっぱり、ダメだった」 [09:28.18]スミレ「ごめんなさい、わたし、自分のことばかりで」 [09:34.15]武「二とも煙を吸い込んで、苦しかっただろう、辛かっただろう、俺はいつもそれを思う。星の話、したよな?覚えてる?」 [09:47.45]スミレ「えぇ…」 [09:48.87]武「俺は、夜になるのが待ち遠しかった。夜になったら星が出る、星は、思い出だから。胸から引き出した、思い出だから。女房やと娘の思い出が、あとからあとから浮かんできた。覚えるはずのない言葉まで…俺は、ずっと空を見上げていた、声も聞こえてきた、女房と娘の声」 [10:24.72]スミレ「武…」 [10:28.09]武「ずっと聞けなかったカセットテープがあるんだ」 [10:32.08]スミレ「カセットテープ?」 [10:33.75]武「スミレと一緒なら、聞けるかもしれない。女房が、寮から帰った俺に聞かせようと、娘の声を吹き込んだんだ」 [10:46.39]スミレ「これ?」 [10:48.27]武「あぁ」 [10:49.83] [10:54.44]『お父さん~夏休みに東京に連れていてください~東京タワーに連れていてください~お父さんお願い~』 [11:05.95]【插入曲start】 [11:22.59]武は、泣いていた、声を出さずに、ただ涙を静かに流しながら [11:34.42]こんなに悲しそうに泣く人を、私は知らない [11:39.43]私は武を抱きしめた [11:41.50] [11:44.74]スミレ「武…星を見に行こう」 [11:50.61] [11:56.74]スミレ「塩の香り、夜のほうが強く匂うね」 [12:02.41]武「今夜も、星出いっぱいだ」 [12:05.89]スミレ「あ、夜光虫…そうだ、待ってて」 [12:12.00]武「あ、スミレ、走ると危ないよ」 [12:15.54]スミレ「いい?武、見ててね?」 [12:18.43] [12:20.16]私は片足で海水をグルグル回した [12:24.57]いつか武が私に見せてくれたものを [12:27.60]今度は私が見せてあげたかった [12:31.26]波打ち際の美しい銀色が [12:33.94]小さな渦に従って回り始めた [12:36.22] [12:37.38]スミレ「どう?」 [12:39.55]武「綺麗だ、すごく綺麗だ」 [12:44.31]スミレ「グルグル回ってるの、水も森も人間も、みんな、全部」 [12:51.97]武「夜の海の、夜光虫のように」 [12:55.37]スミレ「巡る星のように」 [12:59.21]武「スミレ、ありがとう」 [13:03.25]スミレ「忘れなくていいのよ、なにもかも」 [13:08.42]武「あぁ」 [13:09.50] [13:10.95]私は満点の星を見上げながら [13:14.04]いつまでもキラキラ光る光の縁取りを回し続けた [13:19.51]父のことを考えた [13:22.64]『大丈夫、なにも怖くないよ』と、星が囁いた [13:29.05]【插入曲end】 [13:38.73]翌朝、武が私が泊まるホテルに迎えに来た [13:44.40]武「スペシャルゲストが、もうすぐ来るよ」 [13:46.63]スミレ「え?誰?」 [13:48.57]武「次の船にね」 [13:49.99] [14:06.35]勝「先生~」 [14:07.93]スミレ「勝?」 [14:08.91]武「お~よく来たな」 [14:10.84]スミレ「よく来たって?」 [14:12.29]勝「あっ、先生水着着てる」 [14:14.83]スミレ「な、なんで?」 [14:16.41]武「勝のお父さんにはちゃんと許可もらった、夕日だって、俺が出した」 [14:21.25]スミレ「なんでよ?」 [14:22.76]武「勝もさ、俺たちの仲間だから」 [14:25.96]勝「先生、僕、絵日記と宿題、持ってきた」 [14:30.51]スミレ「そう。宿題って?」 [14:32.80]武「この夏の修学っていうタイトルの作文」 [14:37.16]スミレ「この夏の修学…」 [14:38.93] [14:44.42]【插入曲start】【回忆start】 [14:45.43]武「っぷぉ…」 [14:47.01]スミレ「何やってるの?」 [14:49.03]武「潜水…」 [14:50.44]スミレ「そうじゃなくて、ここは小学校のプールで今は子供たちの時間なの。さぁ、こっち上がって」 [14:56.78]武「っふぅ…」 [14:58.70]スミレ「誰の許可もらってるの?」 [15:00.93]武「許可…」 [15:02.15]スミレ「早くあがって」 [15:03.98]武「ん、あ」 [15:05.00] [15:09.82]武「太忠岳っていう山の天辺にさ、大きな石、天柱石っていうんだけど、それが、突き刺さてるんだ。大きな石が、山の天辺に、それがさ、それが…」 [15:29.56]スミレ「武?」 [15:31.88]武「大きな、墓石みたいに見えて…」 [15:35.95] [15:37.37]武「スミレ、ほら、上も見ご覧」 [15:40.31]スミレ「上?」 [15:41.50]武「星が落ちてきそうだろう」 [15:43.42]スミレ「うわ~」 [15:44.83] [15:45.55]スミレ「武、こっち戻ってきて」 [15:48.63]武「スミレ、世界は繋がってるんだ」 [15:52.21] [15:54.15]スミレ「武…」 [15:57.48]【回忆end】 [16:00.43]武「な、三人で、千尋滝に行こう」 [16:03.69]スミレ「千尋滝?」 [16:04.60]勝「行きたい!」 [16:05.56]武「東シナ海を一望できる登山道を、歩いて行こう」 [16:08.85]勝「行こう!」 [16:09.77]武「屋久杉が、俺たちを待ってる!」 [16:11.84]勝「俺たちを待っている!」 [16:13.91]スミレ「いいけど勝、帽子は?」 [16:16.04]勝「っは、いけね、忘れてきた」 [16:19.12]スミレ「仕方ないな、じゃあこの麦藁帽子貸したげる」 [16:23.28]勝「プカプカだよ」 [16:24.48]スミレ「文句言わない、さ、行くわよ」 [16:26.86]勝「待ってよ」 [16:28.08]武「先生」 [16:28.94]スミレ「なによ?」 [16:30.00]武「道、そっちじゃなくて、こっちです」 [16:32.63] [16:34.47]世界中が、緑に包まれていた [16:38.88]笑いながら、武が私に向かって歩いてくる [16:44.49]その笑顔を見ていたら、素直に笑うことができた [16:50.89]手を繋いだ、大きな手に包まれていると、世界が繋がった気がした [16:59.89]そして、鳥が飛び立った、大空へ、高く、遠く [17:09.51]その姿が見えなくなるまで、私たちは空を見上げていた [17:14.57] [22:15.30]【插入曲end】