よしっ いらっしゃいませ ちっす あら、早かったですね オッサンは? それが、目を離した隙に、どこがに遊びに行ってしまいました 出掛けた? ごめんなさいね いえ 大事な話があるでしょう? っ! 電話をくれた時の声が、とても緊張してましたから 早苗さんには敵わないな ガキどもめ、俺様のノックにいちゃもんつけるなんざ 百万年早いてんだよ ちっす なんだてめぇ、どうして居るんだ 電話しただろ、今日は顔を出すって んなこと、いちいち覚えてられるかよっ 大事な話があるんだ! あん?大事な話? ああ、聞いて欲しいんだ ほう、なるほどいい目だ、ほらよ バット!? 俺と真剣勝負だ、表に出ろ なんで!? 久々に腕が鳴るぜ。 聞け小僧!ホームランまで要求しねぇ ヒット性のあたりだったらてめぇの勝ちにしてやる! そん時は、その大事な話ってやつを聞いてやろうじゃねぇか あのさ、俺はオッサンと遊んでる暇はないんだよ へっ、俺様の豪腕に怖気づいてびびったか。チキン小僧め 誰がびびったって?受けてたとうじゃないか! だけどな、もう話を聞くだけじゃダメだ、 打ったら無条件で了承しろ! 何をだ 俺が勝ったら、 俺の言うことに黙って頷けっていってんだよ、いいな! へっ、俺が勝ったら お前の言うことなんざ聞く耳もたねぇからな! ああいいぜ、打っちゃいいだろ! おもしれぇ、勝負だ小僧! 来やがれぇ! へっ、この界隈じゃパンを焼く野茂と呼ばれた男だぜ 時速160キロのストレートを受けてみよっ! 160キロ!?プロにいけよ! へっ、どこ見て振ってやがるんだ。 ボールとバットが1メートルも離れてただぜ! 球筋を確かめたんだよ 二球目だ、おら、よっ! どうした、次で最後だぜ? 一球あれば十分さ!よしっ。来い! よっしゃ、これで、終わりだ! か、かすりもしねぇ てめぇ肩でも痛めてんのか? そんな右肩を庇うようなスイングじゃ 当たるわけねぇだろが馬鹿 怪我なんかしてねぇよっ 別にいいや、そんなものを言い訳にされても困るからな っ、俺の肩じゃ、バットを振ることすらままならないのか…… またやりたくなったらいつでも言ってこい、相手してやるぜ 待ってくれオッサン、あれは冗談だ なに? 話を聞いてくれ 男に二言はねぇはずだろ 俺はおまえをそんな風に育てた覚えがない あんたに育てられた覚えはねぇ こんな勝負で話を聞いてもらえないなんて馬鹿げてる 馬鹿げてるだと?おまえな 男の勝負ってもんはいつだって真剣勝負だ、違うか!? 正論を言うーー まぁ、次はかするぐらいには練習してから来るだな、 小学生よりは楽しませてくれよ、あはっはっはっ くっそ 早苗さん…… 残念でしたね 俺、アホっす はい? オッサンの遊びに付き合っちまって これで話を聞いてもらえなくなったら 渚に合わせる顔がないっすよ 打っちゃえばいいんですよ 実は俺、肩が不自由なんです。だからそう簡単なことには…… 努力すれば、打てるかもしれませんよ え? 諦めないで、頑張ってみてはどうでしょうか、渚のためにも そうだよ、俺はこんなことで諦めてどうするんだ そうですよ、朋也さん 俺やります!渚のために! 朋也さんが変? はい…… 変って、どんな風に? 帰ってきてからずっと…… ……バットを振り続けてるんです 今日うちに行ったとき 朋也くんお父さんから何か言われたでしょうか 朋也さんはなんて言ってますか 俺に任せておけ、って そう、じゃあ任せておいたらいいですよ でもっ 心配、ですか? いえ、朋也くんのこと信じてますから ただ、寂しいです 朋也くん、なんか一人で背負いこんでるみたいで なんでもふたりで頑張っていこうって話したのに ねぇ、渚。たぶんですけど。男の人には ひとりで乗り越えなきゃいけないことがあるんですよ、きっと あ…… 見守っていてくれますね はい 打ってやるっ、打ってやるっ、打ってやるっ この前よりかはいい目をするようになったじゃねぇか 絶対に打ってやる、リベンジだ! へ、返り討ちにしてやる されるかよ おふたりとも、頑張ってくださいねー 落差1メートルを誇るフォークを受けてみよっ! 1メートル!?プロにいけよ! 空振り三振!へへへ、思い知ったか小僧! くっ、くそっ! 本止め、終わりました よし、降りてこい。休憩だ はい おいおい、今日は後二件街灯の設置があるんだぞ 迷惑は掛けませんからっ。それに 芳野さんに教えてもらったスイング、体で覚えておきたいっす おまえもご苦労なっこだな はい、必死っす 今日こそ なんだって、こんな雨の日に戦わなきゃならねぇんだ! 真剣勝負に雨なんて関係ないだろ ふざけんな、てめぇに付き合ってやってんだぞこっちは 勝負するって言い出したのはそっちだろ! へっ、減らず口を。いいだろう、勝負してやるぜ。 だがな、今日で終わりだ。 いつまで勝負させてやるほど甘くはねぇんだ 今日まで ああそうだ、離れってろ、早苗 すぐお風呂入れるように沸かしてありますからねー 小僧、俺様の七つに分身する魔球を受けてみよっ! 雑技団に行け! ちくしょっ ほぅ、だいぶ振りが鋭くなってきたじゃねぇか 来い! だがな、俺様の球は打てねぇよ! くそー! 言ったろ、無理だって 必ず打つ! 俺はこれで帰らせてもらうぜ! 俺は打たなきゃならないんだよ、渚のために! 渚、俺に力を! 渚! 身の程知らずめ、わかったか すげぇ雨だな、帰るぞ、早苗 頼む!もう一球、もう一球だけ、勝負してくれ! くどいぞ、てめぇは負けだ 俺がてめぇの言うことを聞いてやる理由なんてねぇ 随分特訓したようだけどな ちょっとやそこらやったぐらいじゃ 埋まらねぇ力の差があんだよ、てめぇと俺様にはな じゃあな 力にっ! ん? 力に差があるんだったら 俺には後、熱意ぐらいしか残ってない! 勝負してくれるまで、俺はここを動かねぇ なに必死になってんだ てめぇはそこに残りたきゃ残ればいいさ。 俺は勝負なんかしねぇ、行こうぜ、早苗 どうしたんだよ、早苗 頼むっ! てめぇなにやってんだ、 土下座なんてしても俺の気持ちは変わらねぇぞ 朋也さん、とても大事なことですからね、 風邪引っても頑張ってください 早苗…… もう一球だけ、頼む! わかったよ オッサン! 最後の一球だ、いいな ああ! おい、球が見えるのか? 縫い目まで見えてるよ 上等だ、行くぜ! いち、にの、さんっ! ホーーームラン! 渚を俺にくださいっ! ち、俺に似てるぜ、こいつ わたしはずっと前から気づてましたよ。そっくりです 大人になりたくて、はやってたんだ そうですね まだまだガキのくせにね だからこそ、ですよ ああ、そうだな もう、いいんですよ、朋也さん でも、まだ答えを 自分で言ったことも忘れたのか え? 勝負に勝ったらだまって頷けって言ったのは、てめぇだろうが 俺はもう頷いてんだよ、馬鹿っ オッサン だがな、渚が辛い思いをするようなことがあれば、 すぐさま連れて帰るぞ 朋也さん、聞いてください 渚は、わたしたちの夢です そして、今日からは、朋也さんもわたしたちの夢です ふたりの幸せがわたしたちの夢なんです だから、幸せになってくださいね、あの子と一緒に はい! 幸せになります、あいつと一緒に! 俺と渚は、婚約した 籍を入れるのは、渚が卒業してからになった