彼女を家まで送るために、二人で夜道を歩く。空には満天の星と美しい三日月が出ている。何気なく横を見ると、公園に大きな藤の木がある。枝を横に伸ばし、まるで空を見上げているような大木。その枝には美しい紫の藤の花が夜風に吹かれ揺れている。 「せっかくだし、少し見ていかない?藤の花って、あんまり長い期間花を咲かせないから。あは、風強いなぁ~また真剣に見てる。君は何でもじっと見る癖があるの?」 「ねぇ、藤の花の花言葉って知ってる?そっかぁ~しらないか。それなら、教えてあげるよ。「恋に酔う」。酔うってすごいよね~僕はいまお酒を飲みすぎて酔ってるけど。ああ、笑った?笑った奴にはこうしてやる!抵抗しても無駄だよ~ 」 <キス> 突然の行動に彼女は驚いたかもしれない。でも…僕の心はひどく落ち着いていた。嵐がようやく通り過ぎた後のように。彼女の顔を見た瞬間、自分のしたことの重さを知った…とっさに出た言葉は… 「あっ、ごめんごめん~僕、いま結構酔ってるし。」 ひどいことを言ってしまった。彼女だけにはこんなことを言うつもりなかったのに… 「君の髪についた花びらを取ってあげようとしたら、顔を近づきすぎたんだ。僕よくやっちゃうんだよね~それでなぜか好きでもないのに付き合うことになっちゃったり。このことは忘れて。君の好きな人にも悪いし。…帰ろう。」 『紫草のにほへる妹をにくくあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも』 美しい君を憎かったら、ほかに思い人がいる君を愛したりはしない。 僕は…君の好きな人が羨ましくてたまらない。