[00:04.000]父と子が二人で一枚の [00:09.000]さるまたしか持ってないので [00:17.000]かわりばんこにはいて外に出る [00:22.000]この貧乏は東洋風だ [00:30.000]父のすねには巻毛があり [00:35.000]子のすねにはうぶ毛 [00:42.000]父には何十年過ぎてこの貧乏 [00:47.000]子には何十年をひかえてこの貧乏 [00:55.000]父が死んだので子は前よりも [01:00.000]豊かになった [01:08.000]二人でひとつのさるまたが [01:12.000]一人のものになったからだ [01:20.000]だが子供が水浴びしてるとき [01:25.000]カニがさるまたを引いて行ったので [01:33.000]子は誰よりも貧乏な [01:37.000]無一物となりはてた [01:46.000]そして子は毎晩夢に見た [01:50.000]失ったさるまたの行方を [01:58.000]誰かがそれをはいて [02:03.000]世間のどこかをゆくさまを [02:11.000]子は知ったさるまたなしでは [02:16.000]泥棒や乞食にもなれないと [02:24.000]さるまたなしでは人前に [02:29.000]自分の死様もさらせないと [02:36.000]子よ貧乏なんておそれるな [02:41.000]岸づたいに行く女の子を [02:50.000]水から首だけ出して [02:55.000]首だけ出して見送る子よ [03:03.000]かまわず丸裸で追いかけろ [03:08.000]丸裸で追いかけろ [03:15.000]それが君のそれが君の [03:20.000]革命なのだよ 詩:金子光晴