詩を書いた位では間に合わない 淋しさが時として人間にはある そこを抜け出ようと思えば思う程 より深きモノに抱きすくめられるのもまたしかりだ あらゆる色合いのものの哀れが 夫々の運を持ちて立ち現れては 命脈を焦がして尽きるものである時 いかなる肉親とても幾多の他人のひとりだ その死は実に無残ではあったが 私はそれをきれいだと思った ああ覚、今もくれんの花が空に突き刺さり 哀しい肉のように咲いているど 阪和線富木駅南一番踏切り 枕木に血のりにそまった頭髪が揺れる 迎えに来た者だけが壊れた生の前にうずくまる 父、母、弟、兄であることなく 最後まで自分を手放さなかったものの 孤独にわりびかれた肉体の表白よ 水の生まれ出ずる青い山中で 待つのみでいい どこへも行くな こちら側へももう来るな その死は実に無残ではあったが 私はそれをきれいだと思った ああ覚、そうか死を賭けてまでもやる人生だったのだ よくぞ走った 走ったぞ 無残の美