[00:00.000] 作曲 : さだまさし [00:01.000] 作词 : さだまさし [00:13.799]漢口(ハンカオ)の春は 領事館(りょうじかん)の柳の青 [00:27.238]それから池の降る その花の白 [00:33.598]甘露園(かんろえん)のコール コーヒー越しに [00:38.500]うちあけられた愛 それが春 [00:47.843]漢口の秋は 焼き栗のはじける香り [00:53.889]読み終えた文庫本(ぶんこぼん)で うけとめた愛 [01:00.704]かぞえの二十二で嫁いでそのまま [01:06.115]終戦を迎え だから秋 [01:18.885]天津(テンシン)からひきあげたあと七年たって [01:22.567]彼女は初めての そして最後の子供を産んだ [01:28.437]夫は優しくて働き者だったから 誰もが彼女を幸福(しあわせ)とよんだし [01:37.236]確かに幸福なはずだった [01:45.961]いくつかの春は 知らず知らず人を変え [01:52.028]淡い思い上がりが その心を変え [01:58.844]煙草(タバコ)とコルトレーンの中で2度目の恋を見つけて [02:08.848]それも春 [02:13.207]ひとつ屋根の下で やがて別の愛 [02:19.572]それぞれが違う 愛を過ごして [02:26.899]一人息子だけが取り残される形で [02:32.593]終わるも愛 つまり秋 [02:42.910]みんなの謗(そし)りの中で 彼女は故里の長崎へ帰り [02:47.238]小さな喫茶店をはじめた [02:52.691]「椎の実」のママを慕って沢山の若者達が集まり [02:58.341]「椎の実」はいつでも煙草とコルトレーンで一杯だった [03:09.361]僕と同い年の一人息子は おきまりの様に [03:14.093]ビーチボーイズを聴き乍ら一度ぐれた [03:19.135]自分の足で歩き出す迄に随分迷ったけれど [03:24.664]やがてまた元の彼のように歩き始めた [03:29.701]彼は父親を愛するのと同じ位に 母親を愛していたし [03:35.774]僕はそんな彼が大好きだった [03:42.108]長崎の春は 黄砂と凧(ハタ)上げ [03:48.714]一人息子は母と暮らすと決めた [03:55.982]小さな店のカウンターに二人で [04:00.628]立てたらいいねと そんな春 [04:09.626]彼がもうひとつの 愛を手にした頃 [04:15.906]母は突然に病をみつけた [04:22.499]癒るはずのない病名を知らされて [04:28.125]立ちつくしたのは それも春 [04:36.390]まさか彼が母より先に まさか逝っちまうなんて [04:50.509]誰も思わなかった だって恋人と海に出かけて [05:04.551]オールを流されて 飛び込んだまま [05:12.056]だって昨日まで 元気だったんだもの [05:18.890]母は嘆き悲しみ出来るなら私とひきかえにと [05:27.001]今までを悔やんだ [05:32.593]ねェ早かったよ ねェ早過ぎたよ [05:39.140]僕は彼の為に 唄を作った…… [06:09.797]ジャズとクラシック以外は耳を貸さなかった彼女が [06:13.924]僕の唄を愛するようになったのはこの頃だった [06:19.877]自分の残り時間のすべてをかけて 息子の為に祈り [06:25.511]それと同じ位に 僕を そして僕の唄を愛した [06:35.683]三度目の手術の後 彼女は生き甲斐だった [06:41.908]お店にも立てなくなってしまった [06:44.862]それでも生きようとしたのは [06:48.458]この時初めてひとつになった 彼女の兄弟達の心と [06:54.044]それから 死んだ息子の為だったと思う [07:06.214]思い起こせば 誰も彼も皆 [07:12.671]本当はとても愛し合っていた [07:19.582]わずかなすれ違いが物語を [07:24.725]変えてしまうなんて それも愛 [07:33.896]椎の実のママが 死んだ晩に [07:40.725]みんな同じ色の涙を流した [07:47.214]結局愛されて死んていった彼女は [07:53.527]幸福だったと 思っていいかい [08:01.789]ねェ愛されて死んでいったあなたは [08:06.550]幸福だったよね そうだよね [08:15.101]さよなら 椎の実のママ [08:22.546]さよなら 僕のおばさん