桑名の夜は暗かつた 蛙がコロコロ鳴いていた 夜更の駅には駅長が 綺麗な砂利を敷き詰めた プラットホームに只独り ランプを持つて立つていた 立つていた 桑名の夜は暗かつた 蛙がコロコロ泣いてゐた 焼蛤貝(やきはまぐり)の桑名とは 此処のことかと思つたから 駅長さんに訊ねたら さうだと云つて笑つてた 笑つてた 桑名の夜は暗かつた 蛙がコロコロ鳴いてゐた 大雨の、霽(あが)つたばかりのその夜は 風もなければ暗かつた 暗かつた