静かだった、 僕は夢にうなされ、 なんども目を覚ますたびにそう感じた 天上の闇の中に浮かびがる幻影は、 人ひとりの力では支えきれず、 重くのしかかってくる ただ痛みも苦しさもなかった 恐怖という潜在意識のみがそこにあるだけで、 ありとあらゆる不幸が 目の前で手を広げていたが、 とても静かだった 彼女は僕の腕の中で小さくくるまり、 そして、二人はびっしょり汗にぬれていた、 僕は彼女の夢のために 彼女の髪をなで、 彼女がほんの少し目を覚ますと、 僕は言葉を選んでこう言った 平気かい 幸せかい 怖くはないかい そんな台詞を口にすればするほど 愛は冷めてゆく それは別に、 彼女のせいじゃない 彼女の嘘は今夜はじめて出合った時から わかっていたことだから どんな女にも必ず嘘はつきものだ しかし僕はいったい何を探していたのか、忘れてしまう 愛のほかに何のための言葉を探しだすと言うのか しかし僕自身、どれほどその言葉を必要としたことがあったろう そして彼女は目を覚まし、こう言った 優しさすら嘘になることも、もう知っているのに 狭い小さな店の常連の顔が、グラスの中のアルコールの上に浮かんだ 無理して笑おうとするみたいな店のライトの中で、 人々はひしめき合っている 僕は壁にもたれ、店中の誰よりも今夜は怯えていた 刺激が欲しいといって男は彼女の胸に甘えていた 破れたストッキングを履いたその彼女は、 僕にたくさんの言葉で少しだけ話しくれた わかるはずないけど、 何が幸せかっていったら自分らしさしかないともう その言葉がとても冷たく聞こえたのは、 僕が怯えていたせいだろう 彼女はひとつも笑顔を浮かべたりはしなかった ねぇ、じゃぁ、最後にひとつだけ教えてくれるかい 今、君は幸せかい 男が起き上がって言った 俺にとってみれば幸せなんて求めていたらきりがないだろうね 僕は部屋のガラクタにさよならをした