[00:00.57]その朝彼はベッドに [00:07.02]腹這いになりながら [00:09.14]大きく手を伸ばすと [00:11.22]消え去ってしまった彼女の [00:14.51]温もりを探すことから始めてみた [00:22.03]中途半端に使い古された衣類の上に [00:27.76]太陽の光は静かに散らばっている [00:34.23]彼は ようやく開けた眼に [00:39.81]一番最初に焼きついたそれらが [00:45.27]今日を占うもののように思えたし [00:49.99]いや今日というよりも彼の人生そのものを象徴しうる [01:01.05]一番大切な確かなものに思えてならなかった [01:07.83]山のような労働 [01:10.56]こぼれ落ちる [01:12.20]したたかな汗 [01:16.23]彼は次に体のあちこちに [01:22.84]少しずつ力を配ることを始めた [01:26.64]時々 色々な思いに [01:34.58]力がまけてしまいそうになるが [01:38.24]主観性が客観性であることを認識すると [01:44.38]それからまた力を入れてみた [01:53.09]目覚めてから彼は [01:56.57]一度も呼吸を感じなかった [02:04.93]これが死かと思うほど安らかな感覚は [02:13.19]やがて現実というものに嘔吐しながら [02:19.22]激しく突き刺さり [02:24.82]腹這いの彼の体が半分に折れ曲がるような苦痛の中 [02:38.24]今日に生まれた [02:41.56]次に彼は太陽の光を追いかけることを始めた [02:51.15]跳ね返ったり吸い込まれてしまう太陽の虚像は [02:59.05]彼の頭を混乱させ [03:04.20]彼がいかにのろまで [03:08.76]なんて間の抜けた人間かを [03:14.34]その度に思い起こさせてくれた [03:21.78]笑うことを失ったビルの残像は [03:30.42]幾度も重なり合い [03:34.52]埃のような自分の影を見失いそうになった [03:45.47]彼が15本目のたばこに火をつける頃 [03:52.52]太陽は沈みかけた [03:56.20]デコボコな地面に [03:59.96]不器用に建てられたビルの陰に [04:07.38]駐車違反の車は飲み込まれてゆく [04:12.61]彼にとってそれらは [04:18.50]自分自身の行方を [04:24.29]象徴しているようでならなかった [04:30.64]物が壊れてゆく小さな物音がこだまし [04:38.15]街中に響き渡っていた [04:48.87]彼のかざした手に [04:52.05]死がのしかかる [04:55.28]生きるという [04:57.50]空しさに涙がこぼれた [05:03.30]おごそかに街の生け贅が捧げられ [05:12.39]太陽は沈んでゆく [05:16.09]人の心の欲望という奴を彼は考える [05:25.04]ほんの少しでも楽な姿勢を取るために [05:32.97]体をくねらせながら [05:38.84]彼は何度も何度も欠伸をした [05:49.52]欠伸をして [05:51.81]伸ばした手の先に [05:55.69]しなやかな風をまさぐり [06:02.38]彼には何が始まりで [06:07.54]何が終わりなのか [06:11.58]すっかりわからなくなっていた [06:15.45]横たえた体の先には [06:22.27]まだ現実がひっかかっていた [06:28.06]