小さな墓の上に 失ふといふことが はじめて人にその意味をほんとうに知らせたなら。 その顷、仆には死と朝とが いちばんかがやかしかつた。 そのどれも赝の姿をしか见せなかつたから。 朝は饱いた水蒸気の色のかげに、 死は饰られた花たちの柩のなかに、 しづまりかへつて めいめいの时间を生きてゐたから。 すなほな物语をとざしたきり、 たつたひとりの読む人もなく。 骨に暦を雕りつけて。 なくなつた明るい歌と、 その上にはてないばかりの空と。ことづけ。 墓の上にはかういふ言叶があつた―― たのしかつた日曜日をさがしに行つた 木枯しと粉雪と僧院に捕へられた それきりもう帰らなかつた。 一生黙つて生きてゐた人、ここに眠る。