「どうして?」 虚ろに呟く声は忌まわしき賛美の歌に掻き消される 何も感じず、けれど何もかもを受け入れる 皮肉にも それこそがここで生きていくための最良手段|Diriges proximum tuum sicut te ipsum. 高が一個人の自由意志など何の意味も成さないのだ|Sapientia virtus est, 「神に選ばれ、そして許された者よ、さぁ、誓って」|id summum bonum est. 「案ずることはない、辛い記憶は全部、幸福へと乗り換えてしまうね」|Deo duce, non errabis. 聖堂に響く福音と 偽造の楽園 虚飾の神に 成す総べなく跪き伏した 確かに手にした幸福は 掌の雪のよう脆く溶けて 全て淡い幻想と消える 絶対的な力が支配する中 抗う事すら滑稽に思えた いつか描いた理想の輪郭は 存在も意味も曖昧になって 君と交わした100の約束は 果たされることなく役目を終えた 最悪の結末を受容して 私は忌むべき誓いを口にする 「罪を清め、祈りを忘れず、神と王、そしてアークに、この身の全てを捧げます」 震える声で紡ぐ呪いとも感じた言葉 けれど、それを述べた瞬間 これまでの全てがまるで長い悪夢だったかのように思えた それは目覚めの朝 私を蝕んでいたものが夢であった時の安堵に誓いだろうか 心が晴れ蟠りも嫌悪感も跡形も無く消え去る 「あれ?ノア様、私は……」 「967番、神の寵愛を受けた優良遺伝子よ、君を心に歓迎しよう」 まるで生まれ変わったように 世界はクリアに模られてゆき 眩しいほど光が差し込む 一体何処に疑う余地があるのか? 嘗て心を乱したモノすらも もう朧げな過去の欠片となり 彼方の空へと霞みなくなった 君と過ごした1000の幸福を 片時も忘れず歩み続ける 痛みも涙も皆書き換えて 輝く希望の明日へと踏み出すよ 七色の麗しい旋律と 幸せを謳う鳥に魅せられて 心が遠く奪われたようで 神に誓った10の戒めと この聖名を深く胸に刻もう 扉の向こうに待つ 愛おしく 幸福に満ちた未来を生きるんだ 「いつか私もモモのようになって見せるよ、神様の理想の一部に」|In principio creavit Deus caelum et terram. ここは幸福安全保障機関アーク、光に満ち溢れた理想郷|Deum colit qui novit. 「集いし優良遺伝子たち、その目で見届けよう、神の降臨を以て完全となるこの方舟の姿を」|Deus ex machina!