ある女,まなこ裏がへりて,外のこと見えずなりたり。 瞠らむとすればするほどおのが内のみ見え, 胃や腸もあらはなる内臓の暗闇, あほう鳥の啼くこえのみきこゆ。 女,くるしめども癒えず, 剃刀もて眼球をえぐりだし, もとのように表がへさむとすれど,眼球に表なし。 耐えがたきまま表なしの眼球を畑に埋めたり。 女,四十にして盲目のままはてしが,畑には花咲かず。 ただ,隣人たちのみ,女を世間知らずとして遇せしと伝ふ。 鶏頭の首なしの茎流したる川こそ渡れわが地獄変。