てんびん座の物語 朗読 杉田智和 空を見上げて 天秤座を見つけてみましょう てんびん座は春の星座ですが 星図の上では春と夏の境い目のところにあります 4月中旬の21時ごろの空では まだ東南東の低いところにしか見られません もっと遅い時間に探すか 6月ごろに探せば南の空に高く登っていて、より見つけやすいでしょう 東京のような都会では星がぜんぜん見えないと思いがちですが 意外とそうでもありません おとめ座のスピカとさそり座のアンタレスの間を見つめてみてください 三つの3等星が逆「く」の字に並んでいるのが見えてくると思います これがてんびん座です では、この辺でてんびん座にまつわるお話をしていきましょう ずっと、ずっと昔 この世に人間が住むようになったごろのお話です そのごろの気候は一年中春のようで黄金期と呼ばれていました このごろは神々も地上に住み 木々はたわわに実をつけ、川にはミルクやお酒が流れていました 大地の至るところには物が溢れ 人間たちものんびりと暮らしていたのです ですから、このごろはとても平和でした しかし、それから歳月が流れ ゼウスが長い春を縮めて 一年を四季に分けたごろから 人間たちの生活は変わっていきました 寒い冬や暑い夏を知った人間は、その時初めて家を持つようになり 着る物も、四季に応じた工夫をするようになりました しかし、一番重要だったことはどうやって食べ物を確保するかということでした 好きな時に好きなだけ食べられていた黄金期ごろと違い 今は冬があります だから 田畑を耕し、作物を蓄えて置かなければならなくなりました そうなると作物を余計に蓄えようと欲ある人が出てくるのです さらに、それからしばらくすると 人間は自分さえよければ他人はどうなってもいいと考えるようになりました そして 欲望を満たすために、嘘や、悪知恵(わるぢえ) 暴力が氾濫してしまいました 地面を掘って 鉄や金をみつけては争い またそれらを武器にして 戦いを繰り返し 地上は殺し合いの場となってしまったのです すると 神々は欲望に染まりきった人間に愛想を尽かしてしまい つぎつぎに天に帰ってしまいました 気がつくと 正義の女神リケのみを残し 地上から神がいなくなってしまったのです リケはてんびんを使って 人間の善悪を測っていました 天秤の片方の皿に羽を載せ もう片方には人間の行いを載せるのです これで、善悪の判断を示し 人間に正義を行わせようと頑張っていました リケは根気強く人間に愛と誠をといてまわったのです しかし この時すでに人間たちは自分以外の人間を信じることができなくなっていました それは友人や家族でさえも こうなると、さすがのリケも手に追えません そして リケもついに人間たちを見捨て、天に上がってしまいました その時、星座になったのがおとめ座だと言われています そして、星になったリケはいつしかアストレイアと呼ばれるようになりました リケが星座になった時人間の善悪を測るのを使ったてんびんもやはり星座となりました これがてんびん座です ちなみに アストレイアは右手に正義の羽を持ち 左手に麦のほうをもっています それはリケが天に帰る時 麦のほうを袋いっぱいに詰め込んでいたからだと言われています しかし 悪意を持った人間が袋に穴をあけてしまったので 天に上がる途中、麦のほうが零れ落ちてしまいました こうしてできたのがあまのがあったそうです 以上、てんびん座の物語でした