カタバミの恋 ちょびひげ:うららかな、ある日の午後であります あちらから参りますのは、夏目殿と白豚 あいいえ…ニャンコ先生ではございませんか ははー、夏目殿の手にしているのは七辻屋の袋 団子屋の帰りのようでありますなー ニャンコ先生:うちに帰ったらしぶ~いお茶をいれてくれよな やっぱり大福はしぶ~いお茶ってこそいきるものだって…おい!夏目! おいおい、そんな道祖神なんぞほっとけ! 夏目:うん…でも、倒れたままなのも 子供が悪戯したのかな ニャンコ先生:いいからそんなものうっちゃって、はやく大福食わせろ! 夏目:うるさいな、大福、大福って 自分が大福みたいなのに ニャンコ先生:なんだと…って花まで供えるか! 夏目:いや、なんとなく ニャンコ先生:まったく、お前は乙女か ニャンコ先生:食った食った食った食った 腹ごなしにパトロールでも行ってくるかな 夏目:いってらっしゃーい カタバミ:もしもし、もしもし? 夏目:…ん? カタバミ:もしもし、もしもし? 夏目様?夏目様? 夏目:…ん?うわーっ! ちょびひげ:夏目殿が足元に目をやりますと 畳の上にきちんと正座した身の丈三寸 すなわち10センチほどのちい~さな妖がいたのであります カタバミ:今日は誠にお世話になりました カタバミ:わたくし、カタバミと申します 夏目:お世話? カタバミ:左様でございます 夏目:お世話した覚えはないけど カタバミ:わたくしたちの住処を建て直していただいた上、お花まで! 夏目:ああ、もしかしてお前は、あの道祖神の…? カタバミ:左様でございます!左様でございます! 童子に悪戯され難儀しておりました 助けていただき、本当にありがとうございました あっ、これは、ほんのお礼でございます ちょびひげ:と言って、小さな妖はどんぐりをふたーつ、置いたのであります 夏目:どんぐり? いや、気にしなくていいよ カタバミ:いえいえ、ぜひお受け取りになってください お受け取りいただかないと父に叱られます 夏目:そうか。じゃあもらっておくよ カタバミ:オッ☆ ははは。きゅんきゅん…やった朝だ! それじゃ、朝飯前のパトロールに行ってくるかな 夏目:うん…いってらっしゃい カタバミ:もしもし、もしもし? 夏目様?夏目様? 夏目:うわーっ、あっ、またお前か カタバミ:昨日は大変失礼いたしました なんでも人というのはどんぐりを食さぬとのこと あ、うん…まあね… カタバミ:代わりのものを拵えてまいりました ちょびひげ:カタバミが小さな包みを差し出し、それを開きますと それはそれは、小~さな三段重ねのお重があったのであります (夏目:ちっちゃ) カタバミ:さあさあ、お箸でございます (夏目:これもちっちゃ。幼児みたいだな) カタバミ:さあさあ、召し上がれ 夏目:あぁ、いや… カタバミ:さあさあ 夏目:あっ、うむ…まあ… カタバミ:さあさあ、ご遠慮なさらずに 夏目:あっ、うむ… カタバミ:お口に合いますかどうか (夏目:毒ではなさそうだけど) カタバミ:いかがでしょう 夏目:う、うん、うん…まあいい カタバミ:あは♪!左様でございますか、左様でございますか! ちょびひげ:さて、それからというもの、来る日も来る日もカタバミは なにがしかのものを手に、夏目殿のもとを訪れるようになったのであります カタバミ:つまらぬものですが (夏目:野苺か) カタバミ:そろそろ旬でございますね (夏目:わらびか) カタバミ:お供えのお裾分けでございます (夏目:饅頭?干からびてるぞ、これ) カタバミ:生きのいいのが、捕れましたので (夏目:か、かえる!?) 夏目:これは、ちょっと カタバミ:えっ…ああ!申し訳ありません!申し訳ありません! わたくし、修行が足りませんでした 夏目:あ、いや、蛙はちょっとあれだけど ほかはいい線いってたよ カタバミ:本当でございますか 夏目:う、うん! カタバミ:あは~~!なんとおやさしい! ちょびひげ:そんなある日のこと、学校帰りの夏目殿が森の道を歩いておりますと 夏目:痛て ちょびひげ:どこからともなく、小石が飛んできて、夏目殿の後ろ頭に当たったのであります 振り向いてみますが、人気は、ないのでありました 夏目:痛って、誰だ ちょびひげ:しかし、返事は、ありません。ただ森の木々がざわめいているばかりであります また、ある時は 夏目:あぁあああ!いたたたた!ひどいことするなー ちょびひげ:何者かが結んだ草に足を引っ掛けられて転んでしまったのであります また、ある時は ニャンコ先生:ん?夏目?その背中はどうした? 夏目:ええ? ニャンコ先生:おなもみがいっぱいついてるぞ 夏目:ええ?痛て!ちくちく…あっ、うわ、先生、取って取って、取ってくれよ ニャンコ先生:しょうがねえな ほら取れたぞ 百奴ついてた。お前の煩悩の数だ 夏目:最近変なんだ。誰かの恨みでも買っているのかな ニャンコ先生:うん…日頃の行いが悪いからな、お前は 夏目:先生に言われたくない ちょびひげ:カタバミが小さな包みを手に、いそいそと歩いております それを物陰から見ております妖二匹 中級A:おやおや、あの娘、また夏目様のところに行くようだぞ 中級B:行くようだ、行くようだ 中級A:毎日、毎日、よく続くものだ 中級B:続くもんだ、もんだ 中級A:あの娘、夏目様に惚れとるようだが、夏目様は気づいておるのやら なにしろ夏目様は鈍感さんだからな 中級B:鈍感さん、鈍感さん イタドリ:ごめんくださいまし ちょびひげ:そんなある日、カタバミに代わり夏目殿に烏帽子をかぶった年嵩の妖がやってきたのであります 年嵩と申しましても、身の丈はカタバミとさして変わらぬ三寸ほどでありました イタドリ:お邪魔いたします 夏目:ええ?あのう、あなたは? イタドリ:わたくし、カタバミの父で、イタドリと申します 娘が毎度毎度お世話になりまして 夏目:あっ、はあ、こちらこそ イタドリ:本日は、夏目殿に折り入ってお願いがありまして参りました 夏目:はあ… イタドリ:うちの娘をもらってやってくださらんか 夏目:はい!? ニャンコ先生:ただいま~ 夏目:あ… ニャンコ先生:どうしたほうけた顔して ん?あ、さっきまでここに妖がいたな 夏目:先生、どうしよう ニャンコ先生:ん? 夏目:それが… 夏目:笑うな! ニャンコ先生:もらってやれもらってやれ!へへ 夏目:そんなこと言わずに、なんとかしてくれよ先生 ニャンコ先生:へへー、そのような下々の雑事、私は知らーん 夏目:冷たいな。用心棒だろう ニャンコ先生:どうせいつものように節操無く優しげな素振りをしてたんだろう 夏目:そんなつもりじゃ… ニャンコ先生:ふん!とにかく私は知らんぞ 夏目:助けてくれよ先生 ニャンコ先生:知らん知らん知らん 夏目:団子五個! ニャンコ先生:十個だ